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王族の背信 11 -総領事の敗北-

注意:  この小説はフィクションです。実在する国や人物とは無関係です。
    画像は拾いです。
用語:
地名:  ユニステア国ノイビラ市   本作の舞台
登場人物:
ニモニア人:
  マリア・ケリー    次期国王の長女=現国王の姪
  クラウス・ケリー   弁護士、マリアの夫
  テリー・ヤング    在ノイビラニモニア国領事
  ナンシー・ヘインズ  在ノイビラニモニア国領事館職員
  ビル・ヘインズ    X銀行ノイビラ支店長、ナンシーの夫
  クリス・ヘインズ   大学生、ヘインズ夫妻の娘
  ボブ・ホーキンス   在ノイビラニモニア国総領事
コバーロ人:
  ヨンス・パーク    実業家
  ジェニー・リー    弁護士 
  アニー・ソング    ファッションデザイナー
  チソン・キム     会社員
  カン・ソンホン    在ノイビラコバーロ国総領事
 
ノイビラのニモニア国総領事ボブ・ホーキンスはどぎついビデオを見せられて頭を抱えていた。ニモニア人は諸外国から働きバチと冷笑されていた。それは企業人でも公務員でも変わる所は無い。そして彼らのトップグループのエリートたちが期待されて海外に出ていく。当然彼らは発奮して働くが、周囲の環境からどうしても国内勤務時より勤務時間は減る。勢い趣味に費やす時間が多くなり、中には危うい世界に足を踏み入れてしまう者も少なくない。ホーキンスもそうであった。ノイビラのニモニア人コミュニティの中でも社長、支店長クラスの数名と意気投合して世界中のポルノ映画の鑑賞会を定期的に開いていたが、この日は噂を聞いたというコバーロのカン・ソンホン総領事がDVDを持ち込んで一同に見せたのだ。映っているのはノイビラ在住で元王女のマリア・ケリーとその夫ではないか。内容も縄だの奴隷だのと背徳的極まりない。カンが持ってきたという事は責め手はコバーロ人なのだろうけど、ご丁寧にニモニア語に吹き替えられている。
「ケリー夫妻じゃないか。どうやってこんなもの撮ったんだ。」
「合成に決まっているじゃないですか。興奮しないで下さいよ。」
「本物にしか見えないぞ。彼女らに何をしたんだ。」
「我がコバーロ国の映像処理技術を高く評価頂き光栄ですね。ご夫妻はこのビデオとは無関係ですよ。」
「・・・信じられん。」
「この映像が本物だと認めてよいのですか? 聞くところによるとニモニアは結構なお金を使ってご夫妻の行動を監視しているそうじゃないですか。監視計画策定には領事館も参画しているのでしょう。知らない間にこんなもの撮られてましたって外務省とか王室管理局とかに報告するのですか?」
同席している銀行のヘインズ支店長がホーキンスを促す。
「総領事、これは合成に決まってますよ。合成ですとも。」
カンが何の動揺も見せずにダメ押しする。
「ご夫妻に聞いてみたらいいじゃないですか。“は? 何のことですか?”で終わりですよ。それで安心するでしょう。」
もし、このいかがわしいビデオに夫妻が関与していないなら、こんな失礼な質問は決してできまい。ホーキンスは合成だと認めざるを得なかった。本人たちに聞く気もない。頭を整理しつつカンに尋ねる。
「なんでこんなもの作ったんだ?」
「さあ、芸術的モチベーションからじゃないですか。」
「じゃあ、なんで君はこれを私たちに見せたんだ?」
カンはホーキンスよりだいぶ年下だ。とぼけられてかっとなったホーキンスはつい高圧的な言葉遣いになる。
「そこなんですよ。作った連中が私に持ってきてこれをコバーロとニモニアで売りたいと言うんです。見たところモデルの男女の体つきは大したことがない。ここユニステアでも他の第三国でも売れそうもないですからね。」
「こんなもの、売るどころか誰にも見せてはならない!」
「我がコバーロでは表現の自由は保障されていますから、メーカーの勝手にさせてもらいますよ。お国で王室への国民感情から販売不可能というならアングラ市場に出したらいかがでしょう。政府のお偉方とか、ひょっとすると王族の中にも興味を持つ人がいるかもしれませんよ。」
「だめだ。そんなものニモニアには入れさせん。」
「仕方ない。では販売は諦めて、ここにいる皆さんにだけDVDをお分けする事にしましょう。」
「いいか、本体とジャケットの記述はコバーロ語として、ニモニア人が制作に関与したような疑いが持たれないようにしてくれよ。」
(時代錯誤のおっさんだぜ。ネットにアップすれば世界中どこでだって見られるというのに。今どきDVDで見る人なんてジャケットを集めているマニアくらいだろうよ。仕方ない。ホーキンスのためにDVDもジャケットもそれなりの物を作らせるか。ヨンス・パークに言えばすぐにやってくれるだろう。)
同席したニモニア人もネットにアップされる可能性はすぐに浮かんだが、これを防ぐ手立ても思い付かず口を挟めずにいた。数週間後ホーキンス総領事と同席者にはニモニア語吹き替え版とコバーロ語吹き替え版のDVDが贈られた。彼らの中にはそれを見て自慰に耽った者もいた。その中にはホーキンスも含まれていたのだ。
 
ビデオはもちろん実写版である。出演者はニモニア人がケリー夫妻、コバーロ人がヨンス、チソン、ジェニー、アニーで、夫妻の最初の凌辱から奴隷宣言、その前後の調教・玩弄の記録の中からいわゆる抜きどころを編集したものであった。ニモニア語への翻訳はビル・ヘインズが行った。だからビルはホーキンス総領事らとビデオを見た時には実写版だと知っていたのである。吹き替えはマリアの声はクリス、クラウスはテリー、ヨンスはビル、チソンはクラウス、ジェニーはナンシー、アニーはマリアがそれぞれ担当した。夫婦揃ってコバーロ人役の声優となったビルとナンシーはかつてジェニーに「恨むならケリー夫妻を恨みなさい。」と言われて、その気になった事もあったが、いざとなると責められる夫妻の映像を見せられながら「さあマリア、コバーロ人様に奴隷の誓いを言いなさい。」などのセリフを言うのは憚られ、鞭で脅されながらの吹き替え作業となった。ビルは自分たちが声優を務めるとは想像もせず、つい趣味のAV鑑賞で培った語彙を駆使してどぎつい翻訳をしてしまった事を後悔した。自らの痴態を見ながら自分らを責める声を自国語で上書きをさせられるマリアとクラウスがセカンドレイプに遭ったような気持ちになったのも当然で、ニモニア人一同はヨンスらのあこぎな仕打ちに底なし沼に沈むような感を抱いたのだった。ビデオが完成するとヨンスはケリー夫妻に言った。
「タイトルは”王族の背信”だ。このビデオはコバーロのカン総領事がニモニアのホーキンス総領事に見せる事になる。合成だとしらばっくれて見せるつもりだ。ホーキンスがお前らに“こんなビデオを撮られたのか?”と聞いてくるかもしれない。どう答えるのか考えておくんだな。正直に答えたらお前らは今の境遇から抜けられるだろう。但しこのビデオが領事館から外務省なり王室管理局なりに送られる事になるだろうね。」
結局、領事館からは何の問い合わせも来なかった。ニモニアの領事館は元王女がコバーロ人の奴隷になっている実態を知ってか知らずか見殺しにしたのである。

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