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私が抜いたSM小説 -その4-

千草忠夫さんの“獏の棲む館”の抜き所です。1970年譚奇会発行のものを古本屋で見つけましたが、後にフランス書院文庫からも発行されたと思います。主人公の佐渡原は異様な風貌から獏(ばく)と称された老人で黒人とのハーフのジョーという手下と共に女性を嬲りものにする話ですが、ここで紹介するのは京二という大学生が同居する兄嫁初子への妄想を綴ったノートを偶然手にした佐渡原が初子を夫の出張中に呼び出して「弟と姦通した」という虚偽の告白をさせる事を責めのスパイスとして用いるという、しゃれたプロットの責め場面です。省略せずに一気に紹介します。
・・・
桜色の木の実をつけた、むっちりとしたふくらみが、責めなぶられてふるえている。無骨な外見に似ず、ジョーの十本の指はそれぞれが独立した生き物のように動く。押さえ、つかみ、さすり、つまみ、弾き、或る時はなだめるように、或る時はそそるように、また或る時はむずがゆくなるような軽い痛みを加えながら・・・・・・それだけではない。ジョーの唇は、初子のえりあしから肩、あごから頬のあたりへと、たえず絹の肌ざわりにも似た接触を続けているのだ。
「ああ・・・・・・」
思わず吐息をもらして、初子はハッと自分を𠮟りつけた。
(いけない、忘れちゃいけない・・・・・・)
必死の思いで唇を嚙みしめ、心を引き締める。が、その緊張のちょっとしたすきをねらって、甘くやるせない感覚が肌の下にもぐり込んでくるのだ。じわじわと汗がにじみ出し、全身の力が抜けたようになる。何もかも任せて、くつろぎたいという気持ちが、抗しようもなくおそいかかってくる。
「あなた・・・たすけて・・・・・・」
思わず救いを遠い夫に求めた。が、その夫はなにも答えてくれない。
(いけないッ)
ハッと膝に力を入れる。が、いつの間にか、足首の間は十センチ以上も外側に引かれていた。
「おねがいです、やめてください……ああ、もう、いやッ」
泣き声になるのは、悲しいためばかりではなかった。ジョーの手は乳房を離れて、次第に下方に移動している。唇がみぞおちをすり降りた。一気に太腿にすべる。
「いやですッ、ああ、いや」
全身が鳥肌立った。膝がガクガクして力が入らず、初子は体を柱にくくりつけている縄にもたれるような形になった。不意に足首の縄が強く引かれた。
「ヒッ・・・」
あわてて足をふみしめるすきに、ジョーの手が内腿の繊細な皮膚にすべり込んでいる。
「ああ、そ、それだけはッ」
のけぞって腰をよじったが、もう防ぐすべはなかった。ズルズルと足縄を引きしぼられるがままに、力を失った下肢はあられもなく角度を拡げてゆく。
「やめてください、おねがいですッ」
城門を押し破られながらも、初子は断末魔の抵抗を繰り返している。
(こ、こんな男に、こんな男に・・・)
ののしりながらも、悩乱の嵐に吹き散らされないでいるのが精一杯だった。ほとんど本能的に、割り開かれた膝のあたりがヒクヒクと痙攣的に縮こまろうとする。が、それが最後だった。不意に何かが抜け落ちたように、緊張の影が股から消えた。
「う、うッ・・・・・」
呻き声と共に、腰がブルッと降伏の戦慄を見せた。ジョーが体を傍へどけて、降伏の姿を佐渡原に見せ白い歯をのぞかせた。初子はあられもない姿をさらしたまま、打ちひしがれたようなすすり泣きをもらし始めている。時々その泣き声が何かに堰かれたように、ウッという呻き声に変わる。すべてに見捨てられた初子は雌獣に変身しつつあった。時折キッと唇を噛んだ顔を苦しげにもたげ。焦点を失った瞳を宙にさまよわせ、再びガックリとなる。見悶えと啼泣が激しくなった。
「奥さん、大分くつろいでいらっしゃるようだが」
佐渡原が声をかけると同時に、ジョーが攻撃の手をゆるめる。初子はハッとしたように顔をあげて、切なげに腰をひねる。
「もう、何もかも白状しようという気になりましたかな?」
言いながら、佐渡原はジョーに眼顔で合図した。ジョーはかねて用意の責め具を手にして、初子の足元にしゃがんだ。自分の体が佐渡原の眼の楽しみをさまたげないように、注意して位置を定めている。
「あッ、そ、そんなッ・・・・・・」
その瞬間、初子は弾かれたように反り返った。が、十二分に掃討されている城は、もはや何の抵抗も示さずに、強引な講和談判の使者を奥深く引見してしまう。
「奥サンミゴトデス」
ジョーはゆっくりと談判の駆け引きを開始した。初子の使者に対する接待は至れりつくせりだった。と同時に談判の条件を納得のゆくまで吟味することも忘れない。
「もう、やめて・・・・・・かんにんして・・・・・・」
汗と共に、強談判に屈しまいと、りきんでいる。ジョーがスッと手を引く。
「早く吐いてしまえば、楽になるよ」
「そ、そんなッ」
悩ましげに首をなよなよと振り、哀願の眼をジョーの手に向ける。佐渡原の待ち受けていたシーンが、遂に始まったのだ。
「お、おねがいです・・・・・・いじめないで・・・・・・」
切なく首を横にむけて、どうにでもしてちょうだいというように、初子は瞳を閉じた。ジョーは責めを再開する。たちまち、初子は生き返ったように激しくそれに応えた。
「オクサン、ハイテシマワナイト、ドコマデモセメマスヨ」
「いや・・・・・・いや・・・・・・」
鼻声を鳴らして頂上のあたりをさまよっている。予震がたえず汗まみれの肌をふるわせている。が、ジョーは意地悪く、初子がその気になってみずから飛び込む気構えを見せると、責め手を後退させるのだ。初子はキリキリと歯噛みした。
「もう、どうなってもいいわッ」
うめくように叫んだ。
「弟と通じたことを認めるんだね」
佐渡原が身を乗り出してきた。初子はコクリとうなづいた。
「はっきり口に出して言いなさい」
「ああ、そ、そんなこと・・・・・・」
美しい眉を八の字に寄せて、初子はいやいやと首を振ったが、もう拒み通す気力は残されていなかった。
「は、初子は……京二さんと・・・・・・ああ・・・・・・」
「はっきり言うんだ」
「い、言えません、言えないんですッ」
「XXXXしましたと、はっきり言え」
その瞬間初子は完全に雌獣に変身した。羞恥に燃え上がらせた全身を切なげにゆさぶりながら、教え込まれた言葉を、はっきり口に出したのだ。同時に、ジョーの責めが激しく開始された。
「弟を愛しているんだな」
「は、はいッ・・・・・・ああッ」
のけぞり、見悶え、泣きわめきながら、初子は奈落へと突き上げられてゆく。
「誘ったのはどっちだ」
「あたしです……夫があんまりかまってくれない、ものだから・・・・・・ああ・・・・・・」
遂に初子は孤独な悦楽の中に対象を求めて強いられた嘘の中に飛び込んでいった。
「最初やったのはどこだ・・・・・・」
「・・・・・・お、お風呂場で・・・・・・もう、もう・・・・・・」
「亭主と弟と、どっちが好きなのだ」
「京二さんの方が……ああッ京二さんッ・・・・・・」
初子の全身が弓なりに硬直し、おそろしいほどの痙攣が全身を貫いた。そして、けだものさながらの呻き声を挙げながら、汗まみれのからだはいましめの中に崩れ落ちた。
・・・
警察が色責めによって容疑者から虚偽の自供を引き出すような事が無いよう祈りますが、それが許されるのがエロ小説というもの。ぞくぞくしました。それにしても団さんの2作品も千草さんの本作も引用部分の最後は痙攣で終わっています。これは彼らの趣味なのか私の趣味なのか・・・。行為や局部をXXXXと記述するのは古き良き時代を感じさせます。もちろん千草さんに限らずXXXXだったり〇〇〇〇だったり“オXXX”だったりするわけですが、それらから一歩踏み込んで「お、おま、・・・おまXX」というセリフをどこかで目にしたときはひどく興奮したものです。でもここら辺がピークで、全部書かれてしまうと却って興ざめしてしまったり。人によりけりなのでしょうけど。

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