私が抜いたSM小説-その2-
団鬼六さんの“夕顔夫人”を紹介します。手元にあるのは1976年に桃園書房から発行された新書版です。弦月流華道家元の島原夢路と妹由利子が卑劣な男木崎や前衛華道の柴田和江とその取り巻きに嬲られる作品です。何度か映画化されていますが、先に原作を読んでしまうと映画を見ても落胆するのみです。原作の官能世界を映像化するのは至難の業と言えましょう。
濃密な攻め場面が長く続くので会話を中心に抜粋します。会話と会話の間の“(中略)”は省略しています。
・・・
[木崎]
(電話で)「・・・弦月流華道の家元、島原夢路先生が今、僕の眼の前においでになるのですよ。一糸まとわぬ素っ裸で後手に縛り上げられたまま、今彼女は恨めしげに僕を眺めています。・・・」
[柴田](取り巻きの女2名の言葉も含む)
「島原夢路の美しいヌードを私達もたっぷり撮らせてもらうわ。このネガが私達の手に入れば、弦月流生花は生かすも殺すもこっちの自由というわけね」
「城門を開いて無条件降伏ってところね」
「奥さまの禁断の扉がこんなに開いちまってるわ」
「まだ、気をやらしちゃ駄目よ。最初の一回はうんと楽しませてあげなくちゃ」
「弦月流華道が崩壊した事に乾杯!」
「まあ、もうぐっしょりじゃない」
「フフフ、如何?奥さまにとっては敵方である私達にこんな事されるの口惜しい?」
[夢路]
「口、口惜しいわ。でも、もういいの。お好きなようになさって。口惜しさも忘れさせて頂戴」
「い、いいわ。ああ、もう私、ねえっ」
[柴田]
「舌を吸ってあげるわ。さ、こっちを向いて」
和江は美しい額やうなじにねっとり脂汗を滲ませて喘ぎつづける夫人の額に手をかけると、自分の方に引き寄せた。和江に口を合わされるという事に一瞬、強いためらいを見せた夫人だったが、裡からこみ上げてくる火のような昂まりにもう破れかぶれとなり、憎い下劣な女の唇にぴたりと唇を押し当ててしまうのだった。
(中略)
夫人は甘美な舌の先を和江に甘く吸われ、蘭子に乳首を甘く揉みほぐされ、そして町子の責具でゆるやかに掻き立てられながら、その名状のできない快美な感覚に身も心もすっかり溶けこませていた。
急に何かにおびえたように夫人は和江から唇を離し、むせるばかりの官能味を持った太腿をブルブル慄わせながら、い、いくわ、と鋭い叫びを我を忘れて口走る。すると、町子は意地悪く矛先をさっと引き揚げて、「また、お預けよ」といい、蘭子と一緒に哄笑するのだ。
(中略)
[柴田]
「嫌だあ、お尻の方まで流しちまって、少しは恥を知りなさいよ、夢路夫人」
「いいでしょう、いいとおっしゃい」
[夢路]
「い、いいわ、とてもー」
[柴田]
「フフフ、夢路夫人、これで七回目のゴールインよ」
[夢路]
「お願い、もう許して下さい。私、もう身体中がくたくたです」
[柴田]
「何いってるのよ。ついさっきまでは盛んに欲しがって鼻を鳴らしていたじゃない」
「赤坂にあるあの広大な奥さまの御邸宅、この柴田流華道の私達におゆずり下さらない?」
[夢路]
「あの家だけは手放すわけには参りません。あれは父がー」
[柴田]
「父が奥さまに相続させたものといいたいのでしょ。奥さまのお父様は大変御立派な方だったそうね」
「でも、その御立派なお父様が奥さまのこんな浅ましい姿をもし御覧になったとしたら、何とおっしゃるかしら」
「あんな写真までこちらの手に入ったのだから、あなたはもう社会的に葬られた人間よ。まともに世間に出る事も出来ないじゃない。都落ちするべきね」
「それに奥様は私達の奴隷同然に成り果てたのよ。私達の奴隷があんな立派なお屋敷に住んでいるなんておかしいじゃないの」
(中略)
もう幾度か頂上を極めて心身ともにぐったりしている夫人は、再び悪魔に手を引かれ、腰を押されるようにして無理矢理頂上に向かって追い上げられていくのだ。
(中略)
[柴田]
「いいでしょ、ね、奥さま、あのお屋敷を私達に下さいな」
「そうして下されば、奥さまがここでこんな恥を晒した事なんか忘れてあげるわ」
「奥さまだって由利子さんだって絶世の美人なんだし、これからいくらでも金持の男達と結婚出来るじゃない。御自分の財産なんて必要じゃないわ」
(中略)
女達に悦楽の思いを骨身にこたえる程、味あわされている内、夫人は熱く熟した内部の筋肉でそれを強く喰いしめたり、絡みつかせたりする機能を発揮するようになったのだろう。
(中略)
[柴田]
「ね、奥さま、お屋敷を私達に下さるわね」
[夢路]
「い、いいわ、私の屋敷でも何でも好きなようにして頂戴」
[柴田]
「まあ、奥さまって素敵。よくいって下さったわ」
(中略)
「ううっ」と夫人は異様な声をはり上げ、頭の芯まで貫くような名状の出来ぬ快美感にガクガクと緊縛されている全身を痙攣させた。
・・・
とまあ、こんな具合に、嫌悪する前衛華道の一派に不動産を略奪されてしまうのでした。買ったのは古本屋でしたから読んだのは1976年よりずっと後だったはずですが、まだ自分をマゾだと公言はおろか自認するのにためらいを捨てきれなかった頃だと思われ、男性ではなく女性が責められるノーマルな(?)名作です。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?