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腰痛経過観察(二週目)の二回目

五月十五日 腰痛注射七日目(二週目)
五月の初頭の事だったと思うが、友人から、小説家のポール・オースター氏が亡くなったとLINEで連絡が来た(彼からは以前、同じく小説家の西村賢太氏が亡くなった事も聞いた。どうやって情報を得ているのかは謎だ)。
オースター作品は好きではあるが、私は余り「良い読者」ではない。ハードカバーは値段が高くて買えず、文庫になったらなったで、今度は古本屋で安く買う。これが「良い読者」である訳がない。ここ数日はオースターの、既に読み終えていた小説、読み止しにしていた小説、「積読」になっていた小説を幾つか読んだ。

私は、そもそも周りが思っているほどの読書家ですらない。介護業務が激務過ぎて、また精神状態や家庭環境の悪化にともなって、ここ十年くらいまともに本を読めていなかった。いずれ読みたいな、と思って気になる本を購入しては、本棚やダンボールに押し込み、果ては床に積み上げていく。これほど不毛で無意味な行為もあるまい。友人知人は、服や車や女その他に対して堅実に投資しているというのに、私は読む予定の無い本に、なけなしの給料を突っ込んでいた。賭博で破滅する人間よりも、私はちょっと精神がおかしいのかも知れない。金を使って何かをするのでなく、金を使って何もしなかったのだ。ほとんど無為とも云える十年。残ったのは三〇〇万円弱の金銭と、壊れた心身。

今は思いがけず読書が捗っている。ぼちぼち仕事に就く事を控えているせいもあってか、余計に気合も入る。かつて友人が勧めてくれた本も幾らか読めている。何を勧めてくれたかは可能な限り憶えている。『カフカ寓話集』(岩波文庫)はY君に頂いた。森達也を勧めてくれたのも彼だ。九鬼周造『「いき」の構造 他二篇 』(岩波文庫)やニーチェ全集を勧めてくれたのは……彼の細君だったか? 間違っていたら申し訳ない、ここは少し記憶に自信がない。O君が勧めてくれた垣根涼介『ギャングスター・レッスン』(徳間文庫)は、私の運が悪かったのか未だ入手出来ずにいる。T君が勧めてくれた梅崎春生『桜島・日の果て』(新潮文庫)は数日前に読み終え、金原ひとみ『アンソーシャル ディスタンス』(新潮文庫)も読み終えた。他に勧めてくれたエマニュエル・ポーヴ『きみのいもうと』(白水社)、井伏鱒二『さざなみ軍記・ジョン万次郎漂流記』(新潮文庫)にも着手したいと思っている。二階堂奥歯『八本足の蝶』は長すぎて気後れしている。中島らもも勧めてくれたが未だほとんど読めていない、というか苦手意識が強くて意図的に避けているフシすらある。最初に読んだ中島らもの本が、自分でもよく分からないが気に入らなかったせいだ(どの本かは忘れた)。『今夜、すべてのバーで』(講談社文庫)は面白かったが。『バンド・オブ・ザ・ナイト』(講談社文庫)は手許にあるので、時間があれば読もうと思っている。少し前、彼が車谷長吉の本を布教して人を絶望させるという不穏な活動を行っていると聞いた(私も全刊行物のうち半分以上は読んだが)。野坂昭如や、鳥居という詩人を教えてくれたのも彼だったか? 松山椋『青き筋肉の疾走』(自費出版)も彼が手配してくれた。S君は通勤電車内で『万葉集』を朗読で聴き、暇潰しにゲーテの『ファウスト』を読んでいるような男なので(本人曰く「理不尽な家庭と仕事のストレスから解放される為」)、難解過ぎて私に読めるかどうかは不安だ。こうしてみると、私は友人に恵まれている。代わりに間違いなく運動不足だが。

オチ、この日記のオチを考えないと……。私のオススメの本でも紹介すればいいのか? チャールズ・ブコウスキー『町でいちばんの美女』(新潮文庫)、トム・ジョーンズ『拳闘士の休息』(河出文庫)、アゴタ・クリストフ『悪童日記』(ハヤカワepi文庫)、車谷長吉『妖談』(文春文庫)……他いろいろ。
もう駄目だ、オチがまるで思いつかない。少しは本を読んできたというのに、このザマだ。これで私は、本が余り役に立たない事を証明する、罪業深き生き証人にまで零落した。民衆から石を投げられて死ぬのだ。糞が。だったらこのまま投稿してやる。石でも何でも投げろよ畜生! オチが無くても日記は成立する! 投稿しろ、「公開に進む」を押せ! 「下書き保存」連打してもオチは出てこねえよ、ウイスキーをガブ呑みして勇気を出せ! あああああこの世のすべてが憎い、オチを要求する世間が憎い! 見んなこんな日記! 価値なんかねえよ! 漱石でも読んどけ!


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