恋する万華鏡、うち震える歓びのひととき
自分の気持に正直というのは良いことではあるが、そればかりではない。かえって迷路に迷い込むこともある。
そこでしか知り得ないこともあるので、あながち無駄とも言えない。
どれもひとつの生き方である。
女性は男性の車にツメ跡を残すことがある。おのれを主張すべく細工を施す。アクセサリーやら何やらで他の女を寄せ付けない為に、いわば虫除けする除虫菊の如く、予防線を張るのだ。
アクセサリーをつけた方には単純に飾って楽しむ気持だったかもしれないが、多感な時期は素直に良いようにとれない。色々と思いをめぐらす。
A子が私の車にアクセサリーをつけている。鼻歌でも聞こえてきそうだ。きれいな娘が自分の車を飾って楽しんでいるのをみて悪い気はしない。
その頃付き合っていた彼女のことが一瞬よぎったが、承知で受け容れる。
A子も明るい良いで娘手放したくないのだ。。
今にして思えばそれだけその頃の私は勝手きままで無軌道な人生を歩んでいた。
心は二人の女性の間で揺れていた。
ある時本命彼女といると、車中のとある一点を見つめているではないか、何とそこにはA子の作品が飾ってあった。あちゃーしまった、もう隠しようがない。私としたことがいつもはその都度うまく隠していたのだがうっかり取り忘れたのだ。
悪事露見す。
自爆してしまった。
もう引くに引けない。
最初見た時、異様に見えただろうと察しがつく。話しかけようとしたが、話す言葉が見つからない。取り繕い用もない。それでもしかたなく恐る恐る
(どうした?)
と聞くと、A子の作品をじっと見て何かあると言う。
それくらいのことしか言えないのもけなげだが、自分を主張する娘ではなく、何とも言えない表情をしていた。
哀しみを隠し怨念を内に秘めているようだ。
私は観念した。もう引くに引けない。決断のしどころだ。
A子作品のアクセサリーをつかむと外に放り投げた。不思議なことにせいせいした。この辺が潮時だったんだろう、自分の気持としては。彼女に対しても自分はお前の方をを選ぶという暗黙のサインになったようだ。
彼女の顔に安堵と共に笑みがこぼれた。
そもそもそんなに器用な方ではなく、良くないことだし、何とかせねばと思っていた。これも自然の流れであり、良いきっかけだった。
A子には悪いがそういうことなのだ。
A子としてみれは、あたりまえだが、私がフリーだとして付き合ったが、回りからは、それはおかしい。相手がいないことはないと証拠もないのに確信めいたことをいわれた。別に確かめられもせず、何も言われなかったのに回りからはそんなふうに見られていたんだと思った。確かめられ てもお茶をにごしていたが。
事実私もその場に居合わせていたので、冷や汗ものだった。鬼畜の所業のほんの一端である。
様々なことがあった。彼女といるところを知人に見られA子にバレた。とはいえいい気なもので、そんなことがあっても私はへっちゃらだった。そもそもそんな関係性で、入れ食いの池で釣りをしている感覚である(色事師でもあるまいに)A子はうすうす感づいていたようだ。
アクセサリーが無くなったのを見てもA子は何も言わない。瞬時に察したようだ。
言ったところでどうなるものでもない。どちらの旗色が悪いのかは、見るからにあきらかだ。
今更何も言うことはない。
現実が物語っている。ドラマとは違うのだ。
大きな壁ができていた。
そしてA子は悟った。良い娘で可哀想だがどうしようもない。仕方が無い。
その姿が小さく見えた。
一方彼女の方は障害を乗り越え、さらに打ち解け親密になり絆が深まって行った。
二人きりになった時、一皮むけたかのように、彼女はいつにもまして、積極的だった。求め合うのは自然のなりゆきで思いは同じだ。
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