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ビルクリ情報局〜異性のトイレ清掃を考える〜

“本当はイヤなのに 男湯・男性トイレに女性清掃員 なぜOK?”
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220701/k10013696731000.html

NHK WEB特集

1本の投稿から始まった
異性がいるトイレ、温浴施設は嫌だ!

6月初旬。本誌の「メッセージはトイレの中に」の執筆者である白倉正子さんからの紹介で、NHKの女性記者から私宛に連絡があった。
依頼内容は、以下に記された通りで、

NHKの情報提供窓口「ニュースポスト」に投稿を寄せてくれたのは、栃木県の高校3年生の男子生徒です。

冒頭に紹介した内容に続いて次のように記されていました。
「部活帰り友達と銭湯に行きました。その時服を脱いでいたら目の前を女性の従業員が横切りました。友達と『中にいたら嫌だね』と話していて、頭を洗い始めていたら横から女性の従業員が来て僕の所にあったシャンプーを詰め替え始めました。本当に恥ずかしかったです。これを逆の立場で想像してみてください。こんなことがあったら世間では大炎上ですよね?男子トイレもそうです。男性がトイレで用を足している時に後ろには女性がいる。なぜ男性は我慢しなければならないのでしょうか」

NHK WEB特集「本当はイヤなのに 男湯・男性トイレに女性清掃員 なぜOK?」より

併せて、「トイレ清掃の実態について教えてほしい」というものだった。

私は、清掃業界における現場の男女比を伝えながら(下の資料)、主に女性が男女トイレの清掃を実施していることがスタンダードだと話した。

また、過去取材した事例から、男性トイレは男性スタッフが、女性トイレは女性スタッフが行っているビルメンテナンス会社を紹介した。

それから1か月のときを経て、「本当はイヤなのに 男湯・男性トイレに女性清掃員 なぜOK?」のWeb記事がアップされた。

記事内で焦点になっているのは、男湯もしくは男性トイレに女性作業員が入っていることが「恥ずかしい」や、外国人からは「びっくりした」という利用者側からの意見である。
近年では、若者(主にZ世代)を中心に、ジェンダー平等の理解が進んでいるため、いくら仕事とはいえ、裸になる空間と生理現象を落ち着かせる空間に、異性がいることへの違和感と不快感があるのもかもしれない。価値観と文化が急速に変化する現代だからこそ、利用者のニーズも変わりつつあるのだ。

ちなみに、この記事の反響が大きいというのは担当記者から直接聞いており、事実、松本人志と東野幸治などが出演するフジテレビの「ワイドナショー」でも、「男湯に女性清掃員がなぜ許される? 男性側の声がネットで話題」が7月10日に放映されたほどだ。番組内では、ゲストで出演していたロンドンブーツ1号2号の田村淳が、「お互い気を遣わないといけないことが煩わしい。男性トイレは男性がやるほうが気持ちがすっきりする」と意見を述べていた。

2倍の労力はかけにくい……
今後はハラスメント対策も重要!?

では、作業者側の視点に立ってみよう。人手不足、最低賃金の上昇というなかで、最小人数でトイレ清掃を実施しているケースが大半ではないだろうか。女性トイレは女性スタッフが、男性トイレは男性スタッフがというように分けて実施した場合、単純に2倍の工数がかかることになる。

また、トイレ清掃は小便器や大便器、水まわりのみならず、巡回清掃時には、トイレットペーパーの有無やひどい汚れの処理、石鹸の交換業務などなど、点検することも多く、だからといって常駐スタッフを男女それぞれ待機させておくというのは、現実的に難しい側面もある。

当然ながら、清掃する側も無策ではない。利用者を気遣い、「女性が清掃中です」や「男性が清掃中です」といった作業看板を掲げ、事前アナウンスすることで対策を取ってきた。今後、それでも利用者からの強い反発、クレームがあった場合、どう対処すべきなのか──。移り変わる時代のなかで、そこはいまから考え、備えておく必要がありそうだ。

逆のパターンで、作業者側が「ハラスメント」を訴えてきた場合、話は大ごとになる。現場で活躍する女性スタッフも「異性のトイレ、更衣室、脱衣所に入って清掃するのは億劫」や「男性トイレの清掃中に嫌な思いをした」という声が上がれば、無理強いさせることは困難ではないか。

「仕事だから」と言えば解決しそうな問題かもしれないが、コンプライアンスやハラスメントに厳しい令和の世の中において、昭和さながらの根性論や無理強いというのは現実的な解決に至らない。経営者ならびに管理者は、利用者と作業者の双方の気持ちを汲み取り、対応していくしかない。

人の価値観が変わっていくなかで、「普通」や「当たり前」というものの定義が、世代間によってまったく異なる。今回の件は、18歳の青年からの声がきっかけであるが、SNSなどでも話題になっていることから、今後、社会の目が厳しくなるかもしれない。

今後、編集部では、他の報道機関ならびに関係団体と協力しながら、この課題について考えていく所存である。同時に、皆さんからのご意見、ご感想も募集していきたい。

担当=比地岡貴世(編集部チーフ)
 1990年生まれのミレニアム世代。二十歳から編集プロダクションの編集者としてキャリアをスタート。2015年から月刊『ビルクリーニング』の制作に携わり、これまで延べ150社以上の企業、200名以上の業界関係者、100現場以上の施設を取材。近年は、清掃業界の近代化に向けた取り組みを追い、デベロッパー、管理会社、システムインテグレーターなどから、施設管理のデジタルトランスフォーメーションを積極的に取材している。

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