見出し画像

暖色照明

石造りの橋を、渡る。
女が向こうで、待っている。同級生の女の子だ。
おれに特別な好意があると、ただ、感じることが、わかる。

日は、完全に、落ちている。
女の家は橋を渡ってすぐのところにある。
平屋の長屋。貧しく、寂しい、長屋。


玄関に入ると、すぐ部屋に、なっている。
古民家のような和室だ。
照明が、あまりにも暖色だと感じる。
照明が部屋の壁、小物を照らしている。
充満している。
ここは、安全だ、とわかる。

真ん中に、囲炉裏のように座卓がある。
壁には低い棚が隙間なく並べられている。実用的な高さがない。
細々とした小物のようなもの(もしかしたらそういったデザインの、化粧品などの実用的なものかもしれない)が所狭しと並べられている。
雑然と、ではなく、整然と、ではなく。砂浜の貝殻のように。並べた女のまま並べられている。
つまり、片付け上手ってこと。


部屋は外観からしてみると生活的で広かった。

家賃は安そうだし、部屋は広い。これなら、天井にカーテンレールを引いて部屋を二分割すれば、弟と二人でも暮らせる大きさだなと思う。


「晩御飯どないする?」
「適当にお願いします。」

女の母がキッチンから顔だけ出して会話。
印象が薄いと思っていたが、今、思い返すとあの人、アフロだったな。


女の背中を後ろから見る。
肩が細くてほっとする。
こんなにも母性的なのに肩が細くてすごいな、と思う。
母性的で肩が厚いのは仕方のないことだとわかっているが、おれは肩の厚い女は萎える。
少し、寂しい気持ちになった。


夜。女と女の母とで一緒に寝ることになる。
寝る時刻になったからか、寝室に通じるふすまの反対側にある扉から長屋の他の住人たちが集まってくる。
長屋に、境目が、ない。
虚を突かれた思いになるが、すぐに受け入れる。
「そういうものか。」
「驚いてると変なやつだと思われるかもしれない。」
寝室のふすまを開けると、教室に2,3個ぶんの広さの部屋になっている。
そこに敷布団が隙間なくびっちりと敷き詰められている。
部屋の奥の方、壁際の布団に至っては布団の半分ぐらいが壁にせり出して(!)もたれかかっている。



大きいコンサートホール。
ここでミカが歌う。
おれは、二階席の壁に沿ってある通路に、立っている。
背後には、非常口の緑のランプが、光っているのを、感じる。
暗い、のでよく感じる。
ここは、自分のいるべきところじゃない。
「おれだけが違っている。おれだけ!」
コンサートホールの座席はぎっしりと詰まっている。(しかし、)全て空席だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?