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鼻眼鏡

(不安だ。)(正しい位置がわからない。)

目覚める。不安は、残っている。
大雨の音がする。大雨が、降っている、とわかる。
キッチンの、開けたままの窓から、雨が、入ってきている。
「閉めへんと。」

思い、キッチンに向かい、窓を閉める。
雨ざらしになっていた水切りかごに、洗濯ネットが入っているのを、見つける。
少し困惑、瞬時に受け入れる。あり得ることだ。

洗濯ネットを洗濯かごへ入れるために、玄関の近くまで、行く。
くたびれたお父さんが、バスに乗って、帰って来るのがわかる。
最悪だ。
もう少し早く、洗濯ネットを戻していたら、玄関で鉢あわずにすんだのに。
でも、もう、おそい。

「ただいま」
「おかえり」

お父さんが鼻眼鏡をしている。
太く、丸い、黒縁眼鏡、大きい鼻の玩具。
滑稽な、鼻眼鏡。

少し困惑、瞬時に受け入れる。

「眼鏡どないしたん」
「壊れた」
「それで大丈夫なん」
「ええねんええねん」
「なんか言われたりせえへんの」
「そんなんなんもいわれへんで」

悲しい気持ちになる。
買い替えるお金もないのかな。

よく見たら、眼鏡を、二重にかけている。
内側に、昔にしていた、眼鏡をかけている。

あの眼鏡は、おれが小5のときに、仕事で壊しちゃったんじゃなかったっけか。
あのころの、お父さんは、怖かったな。
いや、おれが壊したんだっけか…?

家に、黴が生えだしたのも、その時からだと、気付く。


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