【毎週ショートショートnote】 枢軸マーガリン

「うわ、おいしい! やっぱり、お前は紅茶を淹れるの、うまいよなあ」
「そいつは、どうも」

相方は俺の淹れた紅茶をちょっとずつ飲んでいた。猫舌のくせに、俺の淹れた紅茶は、熱いまま飲みたいらしい。冷ませばいいのに。

「なんか、おやつがほしくなるなあ」
「シュガートーストでも、つくるか」

俺は冷蔵庫からマーガリンを取り出した。

「バターないの?」
「ないな」
「マーガリンかあ…」

相方は遠い目をしていた。
まあ、そうだろうな。
あの逃避行のとき、マーガリンが一週間の携帯食代わりになったことがあったしな。

「俺たちが、今あるのも、あのマーガリンのおかげだぞ。あれがなきゃ生きて帰れなかった」
「そうだね。悪いばっかりじゃ、なかったもんね」

つくったシュガートーストを二人で食べる。相方は、マーガリンの味があのときのと違うせいか、多めに食べていた。

あのときの逃避行は、相方にとっては、トラウマつきの思い出なのだろう。

俺にとっては、不可思議な謎のままだ。