【毎週ショートショートnote】口移しサドル


相棒に呼ばれ、俺は食卓へとむかう。

「今日は豚の角煮だ」
「うっわ、豪勢。ごちそうだ」
「下処理が、面倒だったな」
「つくってくれて、ありがとう」
「ああ、じゃあ」

「「いただきまーす」」

角煮のトロトロ具合が、何度も噛みしめたいくらいにおいしい。
相棒の料理の腕が上達は、俺が一役かっている。

あれが食べたい、これが食べたいと、ねだるからだ。


「うまそうで、なによりだ」
「そうだね。あのときよりかは、いい暮らししてるよ」
「どのときだ?」
「自転車のサドルの裏に水を貯めて、いっしょに飲んでたとき」
「ああ、途中、お前が水飲めなくなって、俺が口移しで飲ませたな」
「あのときは、大変、お世話になりました」
「気にすんな」


とにかく、金がなかった。
だから、今の生活が悪事のうえに成り立ってても、俺も相棒も、まったく気にしていない。


「これからも、よろしくね」
「どうした。なんか変なゲームでもしたか?」

変なゲームではない。家族愛が芽生えそうではあったけど。