ダークヒーラー 第1話 生贄

■あらすじ
この世界にはいかなる傷をも癒すことの出来る異能力者が存在している。それを人はダークヒーラーと呼ぶ。彼らはどんな奇跡も起こせるが、その代償として生贄を要求する。生贄に選べるのは愛する者のみ。そんなバカげたリスクがあることを知りながらも、ダークヒーラーの力を求める者が絶えることは無い。古賀真人もそんなダークヒーラーの一人だ。今日も彼の前に依頼人が現れる。自らを生贄に捧げ、愛する者を救う為に。

■登場人物・設定
1,主人公 27歳 古賀真人
※ 1話登場時は17歳。
 学校で酷い虐めを受け、家では実の家族から存在を無視されるという虐待を受けている少年。
 自殺を図るも死にきれずダークヒーラーである木場アザミに命を救われる。
 命を救われた見返りにアザミの弟子となり、後に彼もダークヒーラーとなる。
 師匠兼恋人であるアザミだけを愛し、それ以外の者に対しては一切の情を感じることは無い。
 ダークヒーラーとして人々を救い続けるのもただの仕事だと割り切っており、依頼人がどのような不幸な運命に堕ちようとも興味を抱くことはない。
 アザミ同様、裏の世界では名の知れた殺し屋でもある。
  
2,ヒロイン 34歳 木場アザミ
※ 1話登場時は24歳。
 全身黒ずくめの美女。生贄を代償にして様々な奇跡を行使することが出来るダークヒーラー。後に真人の師匠兼恋人になる。
 常に優雅な笑みを絶やさず、裏の世界では名の知れた殺し屋でもある。
 タダ働きだけは死んでもやるな、が口癖。

●設定・ダークヒーラー
 現代の世界に存在する回復術師。その奇跡の力はいかなる傷をも癒し死者すら蘇らせることが出来る。
 しかし、力を使うには代償として生贄が必要になる。愛する者を代償にしなければ力を行使することは出来ない。
 例えば失った腕を再生させるには愛する者の腕を贄に捧げなくてはならず、死者を蘇らせるには愛する者の命を犠牲にしなければならない。
 深い絆で結びついた者同士でなければ生贄に選ぶことは出来ない。 


■ シナリオ本編 第1話 生贄

■ 学校屋上 夜

 柵を乗り越え地面を見下ろす真人。
 学校で酷い虐めを受けている記憶と家で実の家族達 (父・母・兄)から存在を無視されている記憶がフラッシュバックする。
 真人は目を閉じ身を投げる。
 屋上から落下し、激しく地面に衝突する。身体はグシャグシャになるもまだ意識はあり死に損なう。
 真人は口から泡の様な血を吐きながら夜空に浮かぶ月を見つめる。

真人〈ボクは何で生まれてきたんだろう……?〉

 すると、黒ずくめの若い女性──木場アザミが現れ真人に話しかけて来る。肩にはカラスを乗せている。

アザミ「少年、助けてやろうか? ただし代償が必要だ。私はタダ働きは死んでもやらない主義なのでね」

真人「ボクには、何もない……」

アザミ「何もないことはないさ。君自身を私に捧げればいい」

真人「それはどういう意味だ……?」

アザミ「私の弟子になれ。そうすれば君は生きることが出来る」

真人「あんたの弟子になったらボクはあいつらに復讐出来るのか……?」

アザミ「そんなことは知らん。だが、力をくれてやろう。とびっきりの奇跡の力をね」

真人「分かった……あんたの弟子になるよ」

アザミ「契約成立だ!」

 アザミは右手をかざすと魔力を迸らせる。

アザミ「ダークヒール」

 瘴気の様な魔力が真人の全身を覆い尽くすと、たちどころに傷が完治する。

真人「こ、これは……⁉」

アザミ「癒しの奇跡を行使したのだよ。しかし、これには代償が必要でね」

 次の瞬間、アザミの肩に乗っていたカラスが地面に落ちる。
 地面に落ちたカラスは全身がグチャグチャの状態で既に死亡していた。

アザミ「君を救う為に私は愛する使い魔のカラスを代償にしたのだよ」 

真人「あんた何者だ?」

アザミ「申し遅れた。私の名は木場アザミ。人は私をダークヒーラーと呼ぶ。それで君の名は?」

真人「古賀真人」

アザミ「それでは君のことは真人とだけ呼ばせてもらおう」

真人〈この日、虐げられるだけだったボクの人生は大きく変わった。そしてボクは知る。愛や友情がこの世で最も尊いものだということを〉

■ 真人 自宅・物置部屋 朝
 物置部屋で目覚める真人。
 制服に着替え部屋を出る。

■ 真人 自宅 居間 朝
 居間から食事中の父・母・兄の楽し気な話し声が聞こえる。

真人「おはようございます」

 真人が挨拶をしても誰も振り向きもしない。

真人「行ってきます」

 真人はそのまま家を出る。
 最後まで家族は誰一人真人に振り向くことはなかった。 

■ 高校 真人の教室 朝

 真人は自分の席の前に佇む。
 机には『死ね』『ゴミ雑巾』などとマジックで書かれている。中央には菊の花が活けられた花瓶が置かれ、机の中からはゴミが溢れ返っていた。
 そんな真人を遠巻きに見る虐めグループの生徒五名。

■ 高校 真人の教室 放課後 

 真人の前に現れる五人の虐めグループの男子生徒達。
 リーダー格の林は真人の肩に腕を回す。

林「真人、ちょっと付き合えよ」

真人「ああ、いいよ?」

■ 高校 校舎裏 夕方
 人気のない校舎裏で林達に囲まれる真人。

林「そんじゃ、今月分の『友達代5万円』を寄越しな」

 林はニヤケ顔をしながら真人に手を差し出す。
 すると、真人はフッとほくそ笑む。
 林は苛立った表情で真人の胸倉を掴み上げる。

林「何がおかしいんだ?」

真人「ねえ、林君。一つ聞いてもいいかい? ボク達は友達だよね?」

林「ああん? お前、何を言って……」

真人「もしもボクと友達だって言ってくれたら、幾らでも友達代をあげるよ」

 林は他の仲間達と顔を見合わせると、嘲笑交じりに同時に呟いた。

林達5人「ああ、オレ達は真人の友達だぜ?」と。

真人「その言葉が聞きたかった」

 その瞬間、真人や林達は禍々しい影に覆い包まれる。
 影は林達には認識できず、すぐに消えた。
 真人はほくそ笑むとナイフを取り出す。

林「てめえ、何のつもりだ⁉」

真人「安心して。友達を傷つけるような真似はしないよ。刺すのは自分自身だ」

 真人はそう呟くと、自分の腹部をナイフで刺す。
 林達は真人の突然の行動に唖然となる。
 真人はナイフを抜くと、傷口に手を当てる。

真人「友を贄に捧げる。奇跡の力よ、我が傷を癒したまえ。ダークヒール」

 真人の手から瘴気のような魔力が溢れ出すと、たちまち傷口が塞がる。

林「ぎゃあ⁉」

 林は突然叫ぶと、腹部を押さえながらうずくまる。林の腹部から血が溢れ出してくる。

真人「友達って素晴らしいね。おかげでボクの傷は治っちゃったよ」

林「真人、てめえ、オレに何をしやがった⁉」

真人「ボクはね、昨日、ダークヒーラーになったんだよ。今使ったのは癒しの力。どんな傷でもたちどころに治してしまうんだ。ただしこの力を使うにはとある代償が必要なんだ。そう、家族や友達という愛する者を生贄に捧げなければいけないんだ」

 真人は歪な笑みを浮かべると、ナイフを振りかざし自分の足を刺す。

真人「ダークヒール」

 真人はナイフで刺した右足にダークヒールをかける。傷はたちまち完治する。

林「ぎゃあ⁉」

 林の右足から血が溢れ出す。
 真人は構わず左足をナイフで刺し、ダークヒールをかける。
 林の絶叫が木霊する。
 他の四人はこの異常な状況を前に為す術もなくただ茫然と立ち尽くしていた。
 
林「や、止めろ……止めてくれ……!」

真人「何でだい? ボク達、友達だろう? ならこれからもボクを助けてくれよ」

林「違う……」

真人「何? もう少し大きな声で言ってくれないと聞こえないよ?」

林「てめえみたいなイカれ野郎なんざ友達でも何でもないっつってんだよ⁉」

真人「へえ、そうなの? 他の4人も同じ気持ちかい?」

 他の4人も「ああ、そうだ」と真人に答える。

真人「そっか。ボクと友達だって言ったのは嘘だったんだね? それなら仕方ない。林君の傷はボクが全て引き受けるよ」

 その瞬間、真人の全身を瘴気が覆い包む。
 先程、ダークヒールで完治した傷は全て元に戻り、傷口から血が溢れ出す。

真人「偽りには死をもって償うがいい」

 血塗れの真人がほくそ笑みながらそう呟いた瞬間、林達の前に大鎌を持った死神が現れる。
 死神は大鎌を振ると、林達5人の魂を刈り取った。
 林達は絶命し地面に倒れる。
 
真人「ダークヒール」

 真人は林達の死を確認すると、再び全身にダークヒールをかける。
 全身の傷は一瞬で完治した。
 そこに陰で見守っていたアザミが現れる。

アザミ「ダークヒールは完璧にマスターしたみたいだね?」

真人「お師匠の言う通り、こいつらに自分で友達だと言わせるだけで生贄契約を結ぶことが出来たよ」

アザミ「そして、一方的に契約を反故にしたり、嘘、偽りを申し立てた場合には死をもって贖うより術は無い。これも本当だっただろう?」

真人「おかげで治療したことが無かったことになってしまったけれどもね」

アザミ「それで、返って来た傷は何を生贄にして治したんだね?」

真人「それはもちろん、愛するボクの家族を捧げたのさ」

 その頃、真人の自宅では生贄にされた家族達が血塗れの姿で床に倒れていた。

真人〈改めてボクは思う。愛や友情は何て素晴らしいんだろうかって〉


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