剣鬼の帰還 第2話 魂食い

■ ダンジョン内部

 茫然としている勇に一匹のゴブリンが襲い掛かってくる。
 我に返った勇は身構えるも身体が鉛のように重くなっていることに気付く。
 
勇「何だ、この貧弱な肉体は⁉」

 勇は持っていた剣でゴブリンの小剣を防ぐも押し返すことが出来ない。
 その間にもゴブリンやキラーラビット、ポイズンバットなどの低級モンスター達が襲い掛かってくる。
 勇は辛うじて最初に襲い掛かって来たゴブリンを斬り倒すも完全に消滅させることは出来なかった。
 斬り倒されたゴブリンは獰猛な唸り声と上げながら立ち上がり再び襲い掛かってくる。

勇「クソッ! このオレがたかだかゴブリン一匹すら倒しきれんとは」

 勇は襲い来るモンスターの大群から背を向け走り出す。

勇〈とにかくこの場は逃げなければ!〉

 勇は左手の甲にある霊子結晶を起動させる。

勇「霊子結晶、ステータスオープン!」

『クラス初級剣士 レベル10』

 表示されたクラスとレベル数を見て勇の顔が驚愕に歪む。

勇「レベルがたったの10って高校の訓練生並みじゃないか⁉ しかもクラスが初級剣士だと⁉」

勇〈オレのクラスは剣士クラス最強の『剣鬼』だったはずだ。いったいどうなっていやがる⁉〉

ナレーション・剣鬼の説明
『剣鬼とは7大属性の内、光属性以外全ての属性を持つ剣士クラスの究極形態である。所有するスキルは全て攻撃に特化し、最強の前衛職とも呼ばれる。現在、剣鬼のクラス保持者はSSS級ハンター伊庭勇のみとされていた』

 そして、自分が着ている服を見てハッとなる。それは高校の制服だった。

勇「何でオレが高校の制服を着ているんだ……⁉」

 その時、背後からポイズンバットに右肩を噛みつかれる。
 激痛が走り、勇は顔を歪める。

勇「クソったれ!」

 勇は剣でポイズンバットの首を切り落とす。
 その間にゴブリンに追いつかれ背中を斬り付けられる。
 勇は壁に背をつけ剣を身構える。
 瞬く間に周囲をモンスターに囲まれる。

勇「まさかSSS級ハンターのオレがゴブリンどもになぶり殺しにされるとはな……」

 その時、勇の脳に声が響いて来る。

魂食い「助けて欲しいか?」

勇「お前は誰だ⁉」

 勇は周囲を慌てた様子で周囲を見回す。

魂食い「つれないな。長い時を共に過ごしてきたというのに。残念ながらお前の身体を乗っ取ることは出来なかったが」

 勇の脳裏に魂食いの姿が過る。

勇「お前は魂食いか⁉ てめえ、まだ消滅していなかったのか⁉」

魂食い「一つ取り引きしよう。力を貸す代わりにお前の魂を食わせろ」

勇「ふざけるな。お前と取り引きするくらいならゴブリンどもに食われた方がマシだ!」

魂食い「妻に会えずともよいのか?」

 勇は妻の言葉に反応し、脳裏に愛妻の伊庭遥の姿を過らせる。

勇「貴様、オレの記憶を読みやがったな⁉」

魂食い「お前のことは全て知っている。なにせ我と魂の一部が既にお前と融合しているのだからな」

勇「なおのことお前を世に出すわけにはいかない。お前に魂を食い尽くされるくらいならオレはここで死を選ぶぞ」

魂食い「では、こういうのはどうだ? お前に1回力を貸す度に寿命を3年分寄越せ。それだけでお前は妻に会うことが出来るぞ?」

 勇の脳裏に何度も愛妻の伊庭遥の姿がフラッシュバックする。そして自分を裏切り命を奪った親友のファルスと元仲間達の姿も。
 
魂食い「さあ、どうする? 時間はもう無いぞ?」

 勇はハッとなり周囲を取り囲むモンスターを見る。

勇「分かった! 約束は守れよ⁉」

魂食い「契約成立じゃな?」

 次の瞬間、勇の全身から瘴気が立ち上る。
 数匹のゴブリンが一斉に勇に襲い掛かる。
 すると、勇の背後から無数の触手の様な真っ黒い手が現れると、次々とモンスターに襲い掛かった。
 黒い触手はモンスターを捕らえると、そのまま溶かす様に消滅させていく。
 瘴気に塗れた勇は残ったモンスターに振り向くと鋭い眼光を放った。
 勇に気圧されたモンスター達は怯えた様子を見せると、逃走を図る。

勇「逃がさん」

 黒い触手は逃げ出したモンスター達を全て捕らえると、同様に溶かす様に消滅させていった。
 全てのモンスターを殲滅した後、勇は地面にうずくまり激しく嘔吐する。
 周囲の視界が歪むほどの眩暈を覚える。

メッセージ〈レベルがアップしました×20〉

 勇は朦朧としながらもステータスを開く。

ステータス『レベル30 初級剣士』

勇「今の戦闘だけでレベルが20も上がっただと? 奴らにそこまでの経験値は無かったはずだが……?」

 すると、前方から地面を震わすほどの大きな足音が響いて来る。
 勇の目の前に現れたのは巨大な身体を持ったゴブリンキングだった。

勇「ゴブリンキング。ここのボスモンスターまでお出ましとはな」

魂食い「3年分の寿命を捧げるなら、今一度力を貸すぞ?」

勇「いいや、その必要は無い」

 そう言って勇は剣を両手で身構え目を閉じる。
 
勇「今のレベルアップのおかげで幾つか剣鬼のスキルが使えるようになったからな」

 勇の全身から膨大な魔力が立ち上る。

勇「スキル疾風迅雷レベル1!」

 勇は静かに呟くと、稲妻の如き速さでゴブリンキングに襲い掛かる。無数の閃光が走り、ゴブリンキングの身体を斬り刻んでいった。

ゴブリンキング「グオオオオオオオオオ⁉」

 ゴブリンキングは血塗れになりながらも方向を発し、丸太の様な巨大な棍棒を勇に振り下ろす。
 勇はそれをかわすとゴブリンキングの頭上に飛びあがり剣を上段に身構える。

勇「スキル雷光斬!」

 稲妻を帯びた斬撃がゴブリンキングを脳天から真っ二つに切り裂いた。
 ゴブリンキングは唸り声を上げながら消滅する。
 
勇〈もう限界が来たか……〉

 勇は意識をもうろうとさせながら地面に倒れる。
 しかし、何者かが目の前に現れ、名前を呼び掛けてくる。

遥「勇人! 大丈夫⁉」

 そこに現れたのは武装した姿の勇の妻、伊庭遥。
 遥は悲痛な面持ちで勇に駆け寄ってくる。

勇「遥……遥なのか⁉」

 しかし、勇の顔がぎょっとなる。自分の記憶の中の遥より大分年齢が上に見えたからだ。
 遥は勇を抱きしめる。

遥「無事で良かったわ、勇人、私の愛する息子……!」

 その瞬間、勇実は絶句する。

勇〈勇人……それはオレが考えていた子供の名前じゃないか⁉〉

 勇はステータスを開きそこに表示された名前と年齢を見て愕然となる。

ステータス表
『伊庭勇人 16歳 レベル35 クラス初級剣士』

勇〈オレは実の息子に転生しちまったってことなのか⁉〉

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