追放された大賢者は幼女魔王に溺愛されながら魔族国家を再建します 第3話 メイド騎士カレン
■ カレン 過去回想 魔王城での戦い
ルーと勇者パーティーとの死闘。
ルーは魔力が尽きた状況でありつつも、力だけで勇者パーティーを返り討ちにする。
しかし、満身創痍のルーは床に倒れる。
同じく重傷を負い、床に這いつくばっていたカレンは、ルーに手を伸ばし絶叫する。
カレン「魔王様!!」
ルー「カレン……安心せよ、ワシはまだ生きておる」
カレン「ご無事でしたか⁉ お待ちください。今、そちらに参ります!」
カレンは必死に立ち上がると、足を引きずりながらルーの元に向かう。
ルー「少々血を流しすぎたようじゃ。しばしの間、ワシは魔王の棺で眠り魔力を回復させようと思う」
カレン「承知いたしました。後は私共にお任せを」
ルー「よいか? 結界の効力が切れる前までには必ず起こせ。この命果てようとも、ワシは家臣を、民を守ってみせる」
カレン「ご安心を。私が必ず起こしますのでごゆっくりとお休みください」
ルー「頼んじゃぞ……」
ルーはそう呟くと意識を失った。
カレンはルーを抱きかかえると、魔王の間の玉座の後ろにある魔王の棺の中にルー寝かしつけた。
棺が閉じると、棺の内部は魔素液に満たされる。
カレン「さらばです、私の可愛い陛下」
カレンはそう呟くと、虎の魔獣に姿を変貌させた。
カレンに続いて、近くにいた兵士達も魔獣形態になる。
魔王城の外に出たカレンは咆哮を轟かせる。
カレンの咆哮を聞いた獣人魔族は全てを察し、全員が魔獣の姿に変貌する。そして、そのまま一斉に魔王城周辺に存在している百万近い人類軍に襲い掛かった。
この日、人類軍は魔獣化した獣人魔族によって完膚なきまでに叩きのめされ撤退を余儀なくされた。
■ 現在 魔王城 昼
獣人の姿に戻ったカレンは、ルーの腕の中でゆっくりと目覚める。
ルー「カレン、気が付いたか⁉」
今にも泣きそうに顎を震わせているルーの顔を見て、ようやくカレンは意識を取り戻す。
カレン「魔王様? 私はどうして……?」
カレンは一瞬で全てを思い出し、勢いよく起き上がる。
カレン「私はあの時、人間共を滅ぼすために魔獣になったはず……⁉」
ルー「愚か者が!!!」
ルーの怒声が魔王の間に響き渡る。
カレンは唖然としながらルーを見る。
カレン「申し訳ございません。魔王様のお怒りはごもっともでございます。お守りすることも出来ず、おめおめと生き恥をさらしてしまいました。この上はわが命を持ってお詫び致します」
だが、ルーは言葉を遮るように、カレンの胸に飛び込んだ。そしてカレンを抱きしめ、ふくよかな胸の中に顔を埋めると、わんわんと泣き始めた。
ルー「ようやく再会出来たというに死ぬなんて馬鹿なことは言わんでくれ! ワシが言っているのは命令違反のことじゃ!」
カレンはハッとなり瞳を伏せる。
カレン「ああするより、魔王様をお守りする術がございませんでした……」
ルー「お前達は大馬鹿どもじゃ! ワシを守るために魔獣になるなぞ言語道断。ワシの命は民を守るためにあるのだ。その守るべき民を犠牲にしてまで生きようとは思わぬ。ワシだけ生き残って何の意味があろうか⁉」
カレン「私などにもったいなきお言葉でございます、魔王様」
カレンはルーの小さな体を優しく抱きしめ返す。
ルー「今後、命令違反は絶対に許さんからの。じゃから、今後はファルスともどもワシに一層の忠義を尽くすのじゃ。よいか? 反論は許さぬ」
カレン「はい、かしこまりました、魔王様……って、ファルスとは誰のことですか?」
ルー「ああ、紹介がまだじゃったな。こやつの名はファルス。ワシの新しい家臣じゃ。二人とも、仲良くするんじゃぞ」
すると、ルーの後ろにいたファルスが恐る恐る現れる。
ファルス「初めまして、ファルスと申します。先程、ルーの家臣になった者っす」
カレン「ルーとはまさか魔王様のことですか?」
カレンは眉間にしわを寄せ、鋭い眼光を発する。
ルー「おおよ。ファルスは人間ではあるが、特別に家臣になることと、その名で呼ぶことを許したのじゃ」
次の瞬間、カレンは怒りのあまり全身の毛を逆立たせ、両手の爪を剣の様に鋭く伸ばした。
カレン「人間は滅びよ!!!」
カレンはファルスに襲い掛かり、鋭く伸ばした爪でファルスの首を斬り落とそうとする。
ルー「止めぬか!!!」
ルーは叫びながら魔王の咆哮を発した。
ファルスに飛び掛かったカレンはたちまち脱力するかのように床に倒れこんだ。
カレン「魔王様、人間は滅ぼすべき敵です。何故、止めるのですか⁉」
ルー「先程申したであろう。ファルスはワシの家臣になったのじゃ。それを殺そうとするなど言語道断じゃ!」
カレン「お戯れはお止めください! 人間は我ら獣人魔族に奴隷紋の呪いをかけた張本人ではございませぬか⁉ それを家臣などと、私は承服しかねます!」
ファルス「あー、カレンさんだっけ? あんたの奴隷紋ならもうとっくに消えてなくなってるぜ?」
カレン「何をほざくか⁉ そのようなこと、あるわけがないだろう⁉」
ルー「あ、本当じゃよ? じゃからカレンを魔獣から獣人に戻すことが出来たんじゃ」
カレン「魔王様まで何をおっしゃいますか⁉ あの奴隷紋を消し去ることなど不可能でございます!」
ルー「なら、己の胸に刻まれた奴隷紋を見てみるがいい。綺麗さっぱり無くなっているでの」
カレン「まさかそんな……」
カレンはメイド服の胸元をはだけると、そこにあるはずの奴隷紋が消え去っていることに気づき驚愕する。
カレン「奴隷紋が……無い⁉」
カレンは動揺のあまり顔を強張らせながらルーを見つめる。
ルー「これよりワシらは魔王城を再建後、魔獣と化した全ての民を元の姿に戻す。カレンよ、お前はファルスの下につき魔族国家再建計画に協力するのじゃ。異論は許さぬ。分かったな?」
カレンはファルスを見て愕然となる。
カレン〈何故、私が人間の下につかなくてはならないの⁉〉
カレンはヘラヘラと笑うファルスを見ながら、心の裡で絶叫した。
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