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怪異を嗜む白銀の魔法使いは奈落で嗤う ~妖とり怪奇譚 姉妹惨歌の章~ 第2話 『白銀の魔法使い』

■ 通学路 夕方

 数名の小学生が三人の高校生にカツアゲされそうになっている。
 怯える小学生達の前にランドセルを背負った明野リンが現れる。

リン「止めろ、この不良どもめらが!!?」

不良A「何だぁ、てめえは?」

リン「テンプレヤンキー共に名乗る名は無い! 見ての通りただの美少女小学生だよ!? 」

不良B「自分で美少女って普通言うか?」呆れた表情。

不良C「くら、舐めた態度とってっとぶち殺すぞ、このメスガキ。てめえも財布を出しやがれ」

 次の瞬間、リンは瞬時に銀糸を右手に巻き付けると、そのまま不良Cの顔面を殴りつけた。
 不良Cは勢い余って地面を転がって行き倒れたまま動かなくなる。
 唖然となる不良Aと不良B。

不良A「ま、まさかてめえ、この辺で見境なくヤンキーを狩っているって噂の銀色の小悪魔か!?」

不良B「いや、オレは極悪黒鬼娘って聞いたぞ!?」

リン「こんな美少女を捕まえて悪魔呼ばわりってあんまりじゃないかい? でも、まあ、否定はしないけれどもね? ただ、一つ訂正。私は黒鬼じゃないよ?」にたり、と残酷にほくそ笑む。
 
 その悪魔の笑みを見て、不良Aと不良Bは怯えた顔を浮かべる。

不良A「くそ、覚えていやがれ!?」

 逃げる不良Aと不良B。
 しかし、彼等の前に人影が現れた。
 そこにはセーラー服姿の長い黒髪の美少女が佇んでいた。

不良B「そこのクソアマ、どきやがれ!?」

 次の瞬間、黒髪の美少女は木刀を身構えると、瞬く間に不良Aと不良Bを叩きのめしてしまった。
 地面に這いつくばる不良Aと不良B。

ラン「私の妹に暴言を吐いてただで済むと思っているのかしら?」

不良A「げえええええ!? ま、まさか、お前が噂のもう一人の悪魔!?」

不良B「こっちが例の黒鬼娘か!?」

ラン「こんな美少女を捕まえて黒鬼言うんじゃありません!!」

 ランは再び不良Aと不良Bの頭を木刀で打ちのめす。
 不良達の悲鳴が上がる。
 すると、先程リンに殴られ、気絶していた不良Cがふらついた足取りで起き上がろうとする。

不良C「うう……ん、何が起きやがった……?」

ラン「止め」

 ランは情け容赦無く立ち上がろうとした不良Cの脳天を木刀で打ちのめした。
 再び不良Cは気絶して倒れる。

不良A「弱った相手に止めを刺すとか、鬼かよ!?」

 ランは不良達に近づくと、木刀を上段に構えた。

不良B「もう止めてくれ! 降参、降参するから!?」

ラン「なら妹を侮辱したことを土下座して謝罪なさい。でないと……」

不良A・B「も、申し訳ございませんでしたあああああああ!!!!」

 不良Aと不良Bはリンにスライディング土下座を決めて見せた。
 その後、不良Aと不良Bは気絶した不良Cを抱えて逃げ去った。
 不良達に絡まれていた小学生達はリンとランに感謝の言葉を述べる。
 リンが手を振り、小学生達と別れた後、リンは呆れた顔をしながらランに話しかける。

リン「ランお姉ちゃん、いくらなんでもやり過ぎ」

ラン「大切な妹を傷つけられそうになったのよ? むしろやり足りないくらいだわ?」フフフ、と冷血な笑みを浮かべる。

リン「私があんな一般人に後れを取るとでも思って?」

ラン「そんなわけないでしょう? だって私達は『白銀の魔法使い』なんですからね。相手が魔神でもない限り私達を傷つけられる存在は皆無よ」

 そして、ランとリンは互いに見つめ合うと同時に言った。

リン・ラン「白銀の当主であるお母様を除いてね」

 そうして二人は可笑しそうにクスクスと笑い合った。
 その時、偶然にも浮遊霊が現れると二人に襲いかかった。
 次の瞬間、幾筋もの閃光が走ると、二人に襲いかかってきた浮遊霊は細切れにされ消滅した。
 リンとランはいつの間にか両手に銀糸を手繰っていた。
 今襲い掛かってきた浮遊霊は二人の持つ魔法の銀糸によって斬り裂かれたのである。

リン「近頃低級霊が増えて来たね」

ラン「そんなことより早く帰りましょう。早く帰ってあげないとアズマ様が可哀想だから」ほんのり頬を染める。

リン「あー、確かにね。そろそろお母さんに殺されちゃっているかもだね」

■ ランとリンの自宅 屋敷 背後には所有する御山も見える 夕方

ラン「お母様、ただいま帰りました」

リン「たっだいまー! アーズーマー⁉ ちゃんと生きているかい?」

 次の瞬間、屋敷の庭にある道場の方から轟音と男性の悲鳴が響いて来る。

リン「あっちゃあ、遅かったかも?」

ラン「アズマ様⁉」

 二人は慌てて道場に走っていく。

■ 同 道場

 二人が道場の中に入ろうとすると、中から人影が吹き飛んでくる。
 人影はリンとランの目の前で転がり倒れる。
 そこには道着姿の男性━━拓勇アズマが倒れていた。
 道場の方から女性━━リンとランの母小夜子の怒声が響いて来る。

小夜子「アズマ君。休んでいないでとっとと起き上がる! 娘達が帰って来るまで組み手を続けるわよ⁉」

 道場から杖を突きながら着物を着た女性━━小夜子が現れる。全身に包帯が巻かれており、隙間から見える肌は火傷の痕みたいに黒くただれている。

アズマ「小夜子さん、もう許して。オレ、もう壊れちゃう」

小夜子「修行中は師匠と呼べと言ったでしょうが!?」

アズマ「お師匠! もう勘弁してくれ! 本当に死んでしまうっすよ!?」

小夜子「生きている内は絶対に死なないから、そういう甘ったれたことはきちんと死んでからになさい!!」

アズマ〈めちゃくちゃ言いおる。誰か助けて……〉

ラン「アズマ様、大丈夫ですか!?」

 アズマに駆け寄るラン。
 ランに気付いたアズマは嬉しそうに涙ぐむ。

アズマ「ら、ランちゃん!? た、助かった……ばたんきゅー」

 倒れそうになるアズマをランが慌てて抱きかかえる。

リン〈この冴えないオッサンの名はアズマ。現在、魔法使い見習いで私のお母さんの弟子をやっている〉

リン〈御覧の通り、毎日お母さんに死ぬ寸前までしごかれているので、私達の帰りがもう少し遅かったら、きっと天に召されていただろう。いやマジで〉

リン「やった。ギリ生きていたね、アーズーマ?」にしし、と悪戯な笑みを浮かべる。

アズマ「お願い。君達からお母さんに教えてあげて。物事には限度があるってね」

小夜子「アズマ君、いい度胸をしているわね。なら今日は私から一本取れるまで休みは無しよ」

アズマ「それって死刑宣告と同じっすよ、お師匠⁉」顔を蒼白させる。

ラン「お母様!? 私、早く修行を始めたいのですけれども⁉」

リン「そ、そうだ!? 私も宿題をアズマに見てもらいたいかなって」

小夜子「そうですか? なら、本日の修行はここまで。申し訳ないけれどもアズマ君、リンの宿題を見てもらってもいいですか?」

アズマ「心から喜んで。そいじゃ、お師匠。お疲れ様でした!」

 アズマは逃げるようにその場から立ち去る。

小夜子「そうそう、リン。本日はお客様がいらしているから粗相のないようにね」

リン「あ、うん、分かった!」

小夜子「それとリン。今日、お部屋をお掃除していたらこんなものを見つけたのですけれども?」

 小夜子はそう言ってテストの答案用紙を取り出してリンに見せる。
 たちまち顔を蒼白させるリン。

小夜子「次にこんなふざけた点数をもらってきたら分かっているでしょうね? お・し・お・き、お仕置きですからね?」

リン「あひいいいい! わ、分かりました、ごめんなさいいい!」

 悲鳴を上げながら逃げ去るリン。
 呆れた様に頭を抱える小夜子。
 可笑しそうにクスクスと笑うラン。

小夜子「さて、ラン。さっそく修行を始めましょうか?」

ラン「お母様は休憩なさらなくても大丈夫なのですか?」

小夜子「白銀の悪魔の名は伊達ではないわ。呪いを全身に受けた今でも飲まず食わずで一週間は魔障どもと戦い続けられるわよ?」

ラン「ならば本日も修行をお願いします!」

■ リンの部屋の前

 アズマとリンの二人は疲弊しきった表情で廊下を歩いている。

リン「まさか隠していた答案用紙が見つかるだなんて……」

アズマ「リンちゃん、小夜子さんに隠し事をしようと思うのが間違いなんだよ」

リン「でも、マジでどうしてバレたんだろう? 絶対に見つからない所に隠していたのに」

 リンは部屋の前でふと立ち止まる。

リン「そう言えばお客様って誰のことなんだろう?」

アズマ「ああ、それはな……」

 リンが部屋のドアを開けると、そこに悪夢の様な光景を垣間見る。
 そこには着物姿の女性が佇んでいた。頬はこけ、肌は青白い。目はうつろで口元からは呪詛のような呟きが早口に吐き出されている。
 まるで幽鬼のような風貌でドス黒いオーラを全身から放っていた。

リン「ぎいや……⁉」

 リンが悲鳴を上げる間もなく幽鬼の様な女はリンに襲いかかった。

アズマ「リンちゃん大好き変態桜花のことさ」

桜花「り、り、リンぢゃあああああああん⁉ 会いたかったわああああああ!」

 桜花は涎を撒き散らしながら発狂した様にリンに高速頬擦りをしてくる。
 リンは完全に桜花に捕らえられた様子で為す術も無く愛撫をされて絶叫する。

桜花「三十分間、決して部屋に入って来ないように」

 がちゃり、と鍵がかかる音が聞えて来た。

アズマ「おいいいいい⁉ 30分の間に何をするつもりだ、桜花!」

桜花「あんなことやこんなことに決まっているでしょうがよおおおおお!?」

 ヒャッハー! というケダモノの咆哮と同時にリンの悲鳴が部屋の中から響いて来る。

アズマ〈リンちゃんの貞操がやばい⁉〉

 すると、部屋から爆発音が轟くと、ドアを突き破って桜花が吹き飛ばされてくる。
 
リン「くたばれ、変態桜花!」

桜花「そんな責め上手なリンちゃんも尊い、尊いですね……ばたんきゅう」ボロボロな状態で仰向けになって倒れている。

 桜花は黒焦げになった状態でありながらも恍惚な表情を浮かべていた。 

アズマ「桜花……相変わらず変態が過ぎるだろうが」

 そう呟くと、アズマは呆れた様に頭を抱えるのであった。

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