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怪異を嗜む白銀の魔法使いは奈落で嗤う ~妖とり怪奇譚 姉妹惨歌の章~ 第3話『花火、それは幻』 

■ リンの自宅 客間

 客間でお茶をすする桜花。

桜花「いやはや、先程はお見苦しい姿を見せました。リンちゃんに会えた興奮でつい我を忘れてしまいました」

リン「ついでいたいけな少女の貞操を奪おうとするんじゃない!?」

桜花「流石の私でもそこまではしませんよ。その寸前の『B』までです」

リン「B? それって何?」

アズマ「桜花、恋愛ABCは既に死語だぞ?」

桜花「そ、そうだったんですか!?」ショックを受ける。

リン「アズマ? その恋愛ABCって何?」

アズマ「お子様は知らなくてよろしい」

 目を点にして首を傾げるリン。

アズマ「そんなことよりも桜花、今日は何をしに? 流石にリンちゃんにセクハラしに来たわけじゃないんだろう?」

桜花「むしろそっちの方を主目的にしたいくらいですけれどもね?」頬を染めながらリンを見つめる。

 リンはガルルル! と桜花に対して威嚇する様に唸り声を発する。

桜花「目的はアズマ、貴方ですよ」

アズマ「オレ? ま、まさかお前!?」狼狽した表情で両手で胸と股間を隠す。

桜花「安心してください。貴方と男女の関係になるくらいならプランクトンとでも結婚しますので」ニッコリと微笑む。

アズマ「そ、そこまで言いやがるか」悲し気な表情を浮かべる。

桜花「アズマ。本日付けで白銀の弟子待遇を解除し、貴方を魔導ギルドS級魔導捜査官に任命します」

 アズマ、呆然となる。

アズマ「へ? それじゃ、お師匠の修行は今日でお終い? しかもオレがS級魔導捜査官って、マジですか?」

桜花「貴方は十分に強くなりましたよ。もっと自信を持ちなさい」

アズマ「でもよ、オレは今だに修行中、一度もお師匠から一本すら取れていないんだぜ?」

桜花「呪いを受けて全盛期の十分の一以下の力しか無いとはいえ、小夜子は十二の始祖の魔法使い家の一角を担う存在ですよ? たかが人間如きが勝てると本気で思っていたのですか?」

アズマ「あー、まあ、確かにそうなんだけれどもよ。何だか納得いかねえな?」

桜花「なら、このまま弟子待遇のまま一生修行を続けますか?」

アズマ「ブルル!? それだけは勘弁。喜んで魔導捜査官の任官を拝命致します」深々と頭を垂れる。

桜花「それじゃ、私はこれで」立ち上がり帰ろうとする。

アズマ「おろ? 何だ、もう帰るのか? 飯でも食って行けよ」

桜花「こう見えて私も忙しい身なのですよ。魔導ギルドの長も楽ではないのです。それに、家族水入らずにお邪魔するわけにはいきませんしね」

アズマ「何のことだ?」

桜花「今日は納涼花火大会でしょう?」ニッコリと微笑む。

 アズマはそうだった、と頷く。

桜花「それでは小夜子によろしく。ああ、それと、リンちゃん。答案用紙を隠すなら下着を入れている箪笥より漫画の本に挟んでおいた方がいいですよ? その際はお友達に間違って答案用紙を隠している本を貸さない様にね」

 では、と桜花は出て行く。
 リンは一瞬、呆気にとられた後、顔を真っ赤にして叫んだ。

リン「桜花、お前の仕業だったのか!? それと、私のパンツを返せえええええええ!!!」

 リンは怒声を張り上げながら桜花を追いかけて行った。

アズマ「やれやれ。毎度桜花が来ると賑やかなこって」

 アズマの脳裏に今までリン達と過ごして来た日々の記憶が過る。

アズマ「そうなるとリンちゃん達ともお別れか……ちょっと切ないねえ」嘆息する。

■ 同 道場

 息を切らしながら小夜子と向かい合っているラン。

小夜子「本日の修行はこれまで」

ラン「え? 何故ですか? 私はまだやれます!?」

小夜子「たまには早く修行を切り上げたっていいじゃない。だって、今日は特別な日よ?」

ラン「特別な日? あ、もしかして今日は花火大会ですか!?」驚いたようにハッとなる。

小夜子「ラン、リンと一緒にお風呂に入って来なさい。それから浴衣を着て出かけましょう。もちろん、アズマ君も一緒にね?」

 小夜子はニヤニヤと笑いながらランを見つめる。
 それを察してか、ランは顔を真っ赤に染める。

ラン「もう、お母様の馬鹿! 知りません!?」

 ランは怒ったようにそう言うも、口元は綻んでいた。
 そのままランは嬉しそうに道場から出て行った。

小夜子「我が娘もお年頃か……。でも、まさかアズマ君とはね」複雑な面持ちで苦笑する。

 すると、小夜子は苦悶の表情を浮かべる。
 苦しそうにうずくまると、脂汗を流しながら胸を押さえる。

小夜子「呪いの進行が速い。このままでは……」双眸に悲哀の色を湛える。

 小夜子は大粒の涙を零すと呟く。

小夜子「あの子達の花嫁姿が見たかった……死にたくない。大人になったあの子達の姿を見たい。孫を抱くまで生きていたかった」

 小夜子は両手で口を塞ぐと嗚咽を洩らす。

小夜子「怖い、死ぬのがたまらなく怖いわ」

 小夜子はしばらくの間、必死に声を押し殺して泣きじゃくった。
 その時、道場の入り口近くにアズマが佇んでいた。その表情は悲痛に歪んでいた。

■ 自宅 玄関外 夜

 浴衣姿に着替えたリンとラン。
 リンは浴衣を着て嬉しそうにはしゃいでいる。
 
アズマ「お師匠、本当にオレも花火大会にご一緒してもいいんですか? せっかくの家族水入らずなのに」困ったような表情を浮かべる。

小夜子「アズマ君、修行以外では名前で呼ぶようにと言っておいたでしょう? それに、貴方はもう家族の一員よ?」頬を染め嬉しそうに微笑む。

 小夜子の少女のような笑顔を見てアズマの頬が染まる。
 アズマが小夜子に対して鼻の下を伸ばしているのを見て、密かに頬を膨らませるラン。

小夜子「さ、行きましょうか」

 すると、リンは奪う様に小夜子の右手を取った。

リン「お母さん、私と手を繋いで行こう!?」嬉しそうに小夜子を見ながら微笑む。

小夜子「あらあら、リンは甘えん坊さんね。ランは……」左手に巻かれた包帯を辛そうに凝視する。

 小夜子はランを見ながら申し訳なさそうに呟いた。

小夜子「ラン、ごめんね。私の左手に呪いさえかかっていなければ二人と一緒に手を繋げたのだけれども」

ラン「お気になさらず。私はもうそこまで子供ではありませんから」

リン「はいはい、私は子供ですよーだ。だから、今日は私はお母さんを独り占めしまーす」えへへ、と頬を染めて笑う。

 すると、小夜子は何かを閃きほくそ笑む。

小夜子「なら、ラン。貴女は迷子にならない様にアズマ君と手を繋ぎなさい」

 ランは顔を真っ赤にして驚いて見せる。

ラン「あ、あ、ああああ、アズマ様と手を、繋ぐ!? そ、そんなことって!?」嬉しそうに目を回しながら両手で頬を押える。

アズマ「あー、お師匠、じゃなくって小夜子さん? 流石にそれはないわ。オレはよくっても、ランちゃんが嫌がるでしょうが。ランちゃん、もうお年頃よ? オッサンとなんて手を繋ぎたいわけないじゃん」深く嘆息する。

ラン〈い、いえ、そんなことはないですよ!!!!!???〉ガーンとショックを受けて泣きそうになる。

小夜子「ランは嫌? アズマ君と手を繋ぐのは?」意地悪そうに微笑む。

ラン「そ、そんなこと、あり得ません! あ、アズマ様!? 不束者ですがよろしくお願いいたします!?」動揺した表情で右手をアズマに差し伸べる。

アズマ「マジ? ランちゃん、君って優しいんだねぇ? おじさん、嬉しくって涙が出そうだよ。ありがとうね」

 アズマはそう言ってランの手を握る。

小夜子「じゃ、行きましょっか」

 そうして、四人は花火大会会場へと赴く。
 途中、花火の時間まで四人は縁日を楽しんでいる。
 その間、ずっとランはアズマから離れようとはしなかった。
 しばらくして、花火が上がり始めた。
 四人は楽し気に打ち上がる花火を見ていた。

リン「来年も、そのまた来年も、また皆で花火大会に来ようね? 仕方ないからアズマも連れて行ってあげる。感謝するように」破顔しながら言う。

アズマ「はいはい、ありがとうごぜえますだ、御代官様」おどけて見せる。

 可笑しそうに笑い合う四人。
 その時、一際大きく美しい花火が大空に舞い散った。

リン〈しかし、この時の私は気付かなかった〉

リン〈これが家族で見る最後の花火であったことを〉

リン〈悲劇は間もなくやってくるのであった〉

■ 数日後 自宅 道場

 道場で小夜子が血塗れの姿で倒れている。
 その傍らには顔の右半分に亡者の呪いを受けたランの姿が。
 
ラン「お母様、どうしてこんなことを!?」

 ランは持っていた血塗れの小太刀を投げ捨てると発狂したように叫んだ。

ラン「嫌ああああああああああああ!? こんな、こんなことってあんまりよ!?」

 いつまでもランの絶叫が響き渡るのだった。

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