最強の宿屋さん ~九尾のお宿は本日も最強のおもてなしの真っ最中。ただし歯向かう輩には容赦しませんので悪しからず~ 第3話 『錬金創造』
■ 九尾のお宿 夕方
冒険者や行商人などの旅人で大賑わいの宿内。
メイド服姿のタマモ、ルスト、アリアの三人は料理などを運んだりして大わらわ。
厨房に向かったタマモはシュウトに料理の追加を伝える。
タマモ「シュウト! 唐揚げを十人前追加じゃ!」
シュウト「了解」
シュウトは冷蔵庫から鶏肉を取り出すとスキルを発動させる。
シュウト「スキル『錬金創造』。鶏肉を唐揚げに錬成する」
シュウトが呟くと、手から青白いオーラが放たれ、獣肉はジューシーな唐揚げに変化する。それを皿に盛りつけタマモに手渡す。
アリア「シュウト兄、オムライスとピザを三人前ずつ追加だよ!」
ルスト「シュウトお兄ちゃん、あの、その、ハンバーグと玉子焼きも五人前ずつ追加、です」
シュウト「分かった! 大急ぎで創るよ!」
そう言って、シュウトはスキル錬金創造で次々と料理を作り続ける。
食堂内では、宿泊客達が見たこともない料理に舌鼓を打っている。
冒険者A「このピザってやつ、熱々のとろとろでめっちゃうめえ!」
商人A「唐揚げとかいう油で揚げた肉料理も最高だ!」
旅人A「焼いた挽肉の塊をパンで挟んだハンバーガーとやらも素晴らしい! シンプルながらこの発想はなかった!」
などと、宿泊客達は料理にビールにと、上機嫌で食事をしている。
■ 九尾のお宿 夜 営業終了後
疲れ果てた姿で食堂の椅子にもたれかかるタマモ、ルスト、アリアの三人。
タマモ「やれやれ、本日の営業もようやく終了したのう」
アリア「いやー、近頃毎日忙しいねえ。ルストは大丈夫? 疲れていない?」
ルスト「うん、心配してくれてありがとう、アリアちゃん。私は大丈夫よ」と言いながら倒れそうになる。
アリアがとっさにルストを抱きかかえる。
タマモ「流石の魔王もこの忙しさの前では過労死寸前のようじゃな。まあ、儂とて倒れる寸前じゃがの」
アリア「へえ、要塞精霊でも疲れることがあるんだね?」
タマモ「たわけ。要塞精霊といえども疲れもするし休まねば過労死するんじゃ。これほど疲れ果てたのは第五次神魔大戦で魔族連合軍と戦った時以来じゃ」
タマモの脳裏に、世界の命運をかけた戦いの記憶が過る。タマモは大要塞ナインテールの姿で魔族と神族の連合軍と激戦を繰り広げている。
タマモ〈あの時は真面目に死にかけたのう……極大殲滅魔法で要塞が大破した時はもうダメかと思ったわい〉懐かしむように遠い目をする。
すると、そこにシュウトがまかない料理を持って厨房からやって来る。
シュウト「皆、お疲れ様。さあ、ボク達も食事にしよう」
シュウトはテーブルに四人前のカツカレーとサラダを用意する。
タマモ「おお⁉ 今日はカツカレーか⁉」
アリア「やった! カレーの上に分厚いトンカツが乗ってるよ⁉」
ルスト「シュウトお兄ちゃん、あの、その……」
シュウト「大丈夫だよ。ちゃんとアリアとルストのは甘口にしておいたから」
ルスト「本当? ありがとう、シュウトお兄ちゃん」
タマモ「シュウトや、儂のは……」
シュウト「激辛マシマシの地獄の三丁目コースにしておきました」
タマモ「うむ! 苦しゅうない。シュウトもようやく儂等の好みが分かってきたみたいじゃの」
そうして、四人は「いただきます」と言って食べ始める。
三人がカツカレーを食べ終えた後、シュウトはデザートにバニラアイスを運んでくる。
アイスを食べた三人は満面の笑みを浮かべる。
アリア「カツカレーだけでもたまらないのに……」
ルスト「食後のデザートに美味しいアイスクリームが食べられるだなんて幸せです」
タマモ「しかし、今更じゃがシュウトや。お主のその『錬金創造』とかいうスキルはチートが過ぎるのう。確か一度記憶したものは何でも創り出すことが出来るんじゃったかな?」
シュウト「創り出すには触媒が必要だけれどもね。まあ、概ね何でも創れるかな?」
アリア「美味しいお料理もそうだし、あの冷蔵庫ってアイテムもそれで創ったんだよね?」
ルスト「私達が着ているメイド服とかも創ってくれたし、シュウトお兄ちゃんは凄いです」
タマモ「日本酒とやらも美味いしの。本当、シュウトのいた世界は何でもあって羨ましい限りじゃ」
シュウト〈何でも、か。家族だけはいなかったけれどもね〉寂しげに微笑む。
その時、宿の入り口で騒ぎが。ドアが蹴破られるような音が響いて来る。
タマモ「シュウトや、外の迎撃システムが破壊されたようじゃ」額に指を置きながら、外の様子を遠視魔法で見渡す。魔導ガトリング砲など、全ての迎撃システムが破壊されているのが見えた。
シュウト「どうやら久し振りの招かざる客のようだ」表情が少し険しくなる。
アリア「まさか、また、あたしたちの刺客が来たの⁉」
ルスト「シュウトお兄ちゃん、私、怖い」
シュウト「大丈夫だから。アリアはルストについてあげていて。タマモ、一緒に来てくれるかい?」
タマモ「何じゃ、ルストばっかり甘やかしおって。儂だってか弱い乙女なんじゃぞ?」
シュウト「タマモ、何か言った?」
タマモ「別に、何にも言っておらんわい」不貞腐れた表情でシュウトの前を歩き始める。
シュウト〈何をむくれているんだろう? ご機嫌取りに後で大吟醸でも創ってあげるか〉
■ 九尾のお宿 玄関口 夜
シュウトとタマモが玄関口に向かうと、そこには六名の冒険者がいた。
ドアは完全に破壊されている。
タマモはシュウトにそっと囁く。
タマモ「こ奴等、相当やりおるぞ?」
シュウトは分かっている、とだけ静かに答えた。
シュウト「いらっしゃいませ。ご宿泊ですか?」
すると、金髪の若い騎士風の青年が前に出て来る。
アラン「単刀直入に言う。ここにいる裏切者の勇者アリアと魔王ルストを我が『金色の獅子団』に差し出せ」
シュウト「お客様でなければ、直ちにこの場から退去してください」
アラン「お前、命が惜しくないのか? それとも何か? もしかしてオレ達のことを知らんのか?」
シュウト「はあ、何分、田舎暮らしが長いもので」
アラン「なら教えてやろう。オレの名はS級冒険者、光の騎士アランだ。まさかオレ達、S級冒険者パーティーとして大陸中に名が知れ渡っている『金色の獅子団』の名を知らぬ田舎者がいるとはな」
アラン達はシュウトに嘲笑を浮かべる。
シュウト「勉強不足で申し訳ありません」
タマモ〈こんなクソ共に頭を下げんでもいいだろうに!〉
シュウト「申し訳ございませんが、他のお客様のご迷惑になりますので、即刻当宿から退去してください。今回はドアの弁償などは請求いたしませんのでご安心を」
アラン「ほう、どうやら貴様、田舎者だけではなく馬鹿の様だな」剣を抜くと、近くの壁を斬り裂く。
アランは剣の切っ先をシュウトに向ける。
アラン「オレは優しいからもう一度だけ言ってやる。今すぐに勇者アリアと魔王ルストをここに連れて来い」
シュウト「二人をどうされるおつもりですか?」
アラン「無論、人類の反逆者勇者アリアは即刻首を斬り落とし、魔王ルストは王都に連れ帰り民衆の前で火刑にするだけのことよ」
アラン達は残酷な笑みを浮かべる。
タマモの瞳に殺気が迸る。右手の爪を刃の様に伸ばす。
シュウト「家族に手を出すというのであればもう容赦はしない。お前達、外に出ろ!」
シュウトの激高した叫びが響き渡る。
タマモはシュウトが激怒した姿を見て唖然としている。
タマモ〈ほう、こやつが怒り狂った姿を初めて見たわ〉
アラン「くく、田舎者風情がS級冒険者たるオレに歯向かうつもりか?」
シュウト「お前だけじゃない。お前達全員をボク一人で相手してやると言っているんだ」
たちまちその場の空気が殺気で凍り付く。
タマモ「シュウト! たった一人では無理じゃ! 儂も加勢するぞ⁉」
シュウト「ダメだ」
タマモ「何故じゃ⁉」
シュウト「女の子を危険な目にあわせるわけにはいかないだろ?」
その時、タマモは唖然とし、頬をボッと染める。
タマモ〈こ奴、いきなり何を言い出すんじゃ⁉〉
シュウト「タマモ! お宿の防犯システムを作動。転移魔法でボクごと奴らを外に移動させてくれ!」
タマモ「了解なのじゃ」パチン、と指を鳴らす。
その瞬間、アラン達とシュウトの足元に魔法陣が出現すると、転移魔法が発動する。
■ 九尾のお宿 外 夜
シュウトとアラン達は宿の庭で対峙する。
アラン「田舎者めが、覚悟は出来ているんだろうな?」
アラン達は武器を構え、シュウトに殺気を放つ。
シュウト「本当ならわざわざ外に出なくても宿内でお前達を駆除することも出来たんだ。何故そうしなかったと思う?」
アラン「知らん。何をほざいている?」
シュウト「家族の住む家を、お前達の薄汚い命で汚すわけにはいかなかったからさ」
アラン「これは滑稽だ。羽虫風情がS級冒険者であるオレ達に敵うと思っているのか?」
シュウト「お前達が何者かなんてどうでもいいことだ。家族に危害を加えるなら誰であろうとボクの敵だ」
シュウトは魔力を放出する。
シュウト「スキル『錬金創造』発動」
アラン「錬金術で何をするつもりだ?」
シュウト「ただの錬金術じゃない。ボクのスキル『錬金創造』はどんなものでも創り出すことが出来る。料理だろうと冷蔵庫だろうと。そして、魔神であろうとも、だ」
次の瞬間、シュウトが創り出した魔法陣から瘴気を放つ魔神が現れる。
突如として現れた魔神を前に、アラン達は戦慄する。
アラン「な、なんだ、この化け物は⁉」
シュウト「これは最強無敵の魔神グレンザム。昔、ボクが子供の頃に考えたキャラだ!」
アラン達は目を点にして唖然とした後、「なんじゃ、それ!!」と絶叫しながら、魔神グレンザムから放たれた強大な魔力波によって遥か天の彼方まで吹き飛ばされた。
近くで戦いを見守っていたタマモは大口を開けて呆然としている。
タマモ〈ボクの考えた最強のキャラを創り出して召喚したじゃと? そんなんチートにもほどがあるじゃろうが⁉〉
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