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居酒屋マスターの独り言

 いらっしゃませ、空いているお席にご自由にお座りください。

 居酒屋を経営しつつ作家業を営んでおります万業破印でございます。

 本日は料理人の裏話などを幾つか呟きます。

 まず初めに、隠語のご紹介。もしかしたらご存知の方もいらっしゃるかもしれません。

『アニキ』という隠語がございます。

 厨房に入ると、必ず聞く言葉です。使い方はこう。

「アニキ、アニキを出せ!!」とか「アニキから食え。そっちじゃない手前のほうだ!」

 とにかくアニキアニキうるさいのなんの。どういう字を書くかは知りません。自分の頭ではカタカナで発音されておりました。

 意味は『古いもの』ですね。主に食材の古いもの。当然、新しく仕入れた食材よりもその前に仕入れたものから使え、ということです。賄いもアニキから作られます。
 もしよろしければ創作のネタにしてください。多分、厨房で働いたことのない方には聞きなれない言葉だと思います。

 はい、続きまして、料理人の世界で囁かれている噂、というか都市伝説というか、なんて云ったらいいんでしょうかね。そんな大げさな話ではないです。

『料理人の結婚はとてつもなく早いかとてつもなく遅いかのどちらかしかない』というものです。皆さんは聞いたことはありますでしょうか?

 ある方もそうではない方も、これはある意味正解である意味間違いです。これは全てマスターの経験則から来る推理ですが、そうではないんです。
 早いか遅いのではなく、出来るか出来ないか、しか存在しておらんのです。

 現在、お店を開くまで色々なレストランなりホテルなり老舗の天婦羅店なりで労働経験のあるマスターでございますが、今のところ百%の確率でそうなのです。そして、結婚している料理人と結婚していない料理人にはある一つの共通点がございます。それは。

『タバコを吸っているどうか』でございます。煙草を嗜む方は前者で嗜まない方は後者。マスターはもちろん後者に分類されます。

 これには異論を唱える読者様もいらっしゃるかと思いますが、少なくともマスターの知り合いの料理人さんの中には一人もおりません。これは結構信頼度の高い話だと思っております。まぁ、土地柄の問題もあるかとは思いますが。

 こちらのお話はあくまでマスターの私見ですので、あまり怒らないでください。一応独り言ですので、それで怒られても困ります、はい。

 お次は中華料理人の鉄板ネタでございます。いわゆる料理人ジョークですね。

「中華の味付けは薄めにしなさい。何故なら、中華鍋を振っていると暑くて汗が出る。その汗が鍋の中にしたたり落ちてちょうどいい塩加減になるからだ。冗談だけれどもな」という。まぁ、しょーもないジョークです。ただ、マスターの経験上、全ての中華の料理人さんが鉄板ネタとして使って参りました。よほど有名なんでしょうね。少なくともマスターは使う気は毛頭ございません。正直ドン引きですから。ただ、それが美少女料理人だったらと思うと、うん、ネタになるかもですね。どなたかそういったグルメ小説でも書いていただけないでしょうか? もちろん汁だくエロ多めで。

 こちらも中華の料理人の鉄板ネタになります。
 ある日、とある女性のお客様が来店され、麻婆豆腐をご注文されました。すると、それを召し上がったお客様は大層ご満足されたご様子で店主にこう言って参りました。

「この麻婆豆腐、すごく美味しかったです!! どこの料理の素を使っているんですか?」と。

 店主は微笑みながら、

「丸●屋ですよ」と答えたという。

 これは、マスターの師匠が云っていた中華料理人ジョークの一つです。ただ、マスターはこのジョークだけは師匠以外の方から聞いたことがございません。もしかしたらこれだけは師匠の実話で、その時静かにブチ切れていたのかもと思ってしまいました。
※ 師匠もマスターも麻婆豆腐は一から手作りしており、それでお客様に料理の素を使っていると思われてショックを受けた、というお話でございますね。丸●屋は美味しいですよ!!!!!

 最後はマスターがお店で経験した中でも指折りに実に面白いお話です。
 業務用スーパーに行くと、冷凍食品に若鶏の半身揚げなるものがお安く存在します。居酒屋では結構定番のメニューです。マスターはこれを若鶏のパリパリ揚げと命名し、お店で出しました。そこそこ人気がございましたが、意外と調理が面倒。一度軽く素揚げした後、レンジでチンして再び揚げてもう一度念のためにレンジでチンするという。ぶっちゃけ、面倒なので期間限定ということにして止めてしまいました。でも、その後、期間限定の新メニューとして、再びお店に出すことにしたのですが、前回と同じメニュー名ではいかんと思い、その時はそのまま若鶏の半身揚げとして出しました。すると、すぐにそれを注文するお客様がいらしゃったのですが、ここで物語が展開します。
 このお客様はこうおっしゃいました。

「去年食べた若鶏のパリパリ揚げが食べたい」と。

 ぶっちゃけ、先程お出ししたものは去年の『若鶏のパリパリ揚げ』として出した業務用食品と全く同じものなのです。
 ですがマスターは分かりました、と。同じものを「こちらが若鶏のパリパリ揚げでございます」と云ってお出ししました。
 本当はお客様が召し上がった後、実は料理名だけが違うだけで先程召し上がったものと同じなんですよ、とネタバレして笑い話にしようかと思っておりました。もちろん、サービス品にしようかと思いました。
 すると、そのお客様は「これが食べたかったんだ」とおっしゃいまして、えらく感激したご様子。流石にそれ以上なにも言えず、マスターはいつでも若鶏のパリパリ揚げをお出ししますのでまたいらしてくださいと、言ってしまいました。
 はい、これはなにが云いたいかというと、いかに料理名は大事かということです。
 
 例えば、一つのおにぎりにしても『おっさんの手作りおにぎり』というメニューよりは『美少女メイドさんの手作りおにぎり』というメニュー名の方が食欲が湧きます。

 そして、これは創作活動にも共通することだとマスターは思います。
 タイトルは重要!! 

 以上が居酒屋のマスターの独り言になります。
 ご清聴、ありがとうございました!
 

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