トイレの花子さん 7

3階のトイレは、大騒ぎなった。
あんなに元気だった春美が何者かに真っ二つに引き裂かれて個室で死んでしまったのだ。

実千花は、「トイレから花子さんが来た、トイレの花子さんを呼んだせいだ」とずっと叫んでいて、自分の恐怖心から二度と逃れられなくなってしまっていた。

優花も、実千花の言う通りかもしれないと思うけど、でも、そんな、まさか。でも。。。
と恐怖心に支配されつつあった。

歪んだ空間は、春美の命と一緒に実千花や優花の恐怖心もべろりと飲み込んでいった。

そして、その場にいた他の子達の恐怖心もばら撒かれ、学校中に張り付いていたゲル状の空気の塊がその恐怖心を吸い取り始めた。

 午後は授業所では無かった。
先生は、子供達を校庭に集めて宥めるのに必死だったし、大勢の警察が来たり、お迎えの親の車であちこちごちゃごちゃしていた。
子供達の中には泣き叫ぶ子供も大勢居て、学校中が恐怖に包まれ大パニックを起こしていた。

子供が怖がる度に、学校に張り付いていたゲル状の空気の塊から触手が伸びてべろりずるりと子供達の恐怖心を飲み込んでいるのだった。

しばらく学校は休みになり、警察が来て何日も調べていた。
トイレ修理の業者が1番疑われたようだったが、学校に来ていた2人は、昼休憩で駐車場の車で休んでいたと繰り返していた。
そして、毎晩のようにPTA総会が開かれたが、何故そんな事が起きたのかと言う疑問は払拭される事はなく、闇雲に数日が過ぎて行くだけだった。

 
実千花と優花は何も語ってはいないが、「春美はトイレの花子さんに殺された」と言う噂が子供達の間で囁かれた。

ようやく学校が再開した時には
誰それが花子さんを見た。
半分になった春美が学校を徘徊している。
次の獲物を狙っているらしい。
次に誰かが花子さんに真っ二つにされたら春美は蘇る。
春美が次の花子さんだ。
と沢山のありもしない噂が学校中に蔓延して、日々怯える子供達で溢れ出した。
とても重苦しい空気が学校に充満していた。

学校の至る所に張り付いていたゲル状の歪んだ空気の塊は、長く伸ばした触手で、学校中に蔓延している子供達や先生達の恐怖心を貪っていった。

先生の中にも、子供達が帰ったあとの3階を怖がる者もいた。
張り付いているゲル状の空気の塊は、何度も何度も恐怖心を喰らった。

どれほどの時間が過ぎただろうか、ある日の放課後の事だ。
たっぷりの恐怖心を喰らい切ったゲル状の空気の塊は、びゅるびゅると触手を伸ばし、学校を覆い尽くした。

学校そのものが、澱んだ空間の中に存在していた。
その日から、更に子供達はトイレの花子さんに怯えるようになり、
学校に来れなくなったり、病気がちになったりとても酷い有様だった。

子供達の恐怖心をたらふく喰らい尽くしたゲル状の空気、いや、空間は、満足しきった様子で、ある晩いきなりブワン!と弾けた。

小さなゲル状の空気の塊になって、パチンパチン!と更に小さな塊になって、プチンプチン、そしてまた小さな塊になって。。。

しまいには霧状の塵まで小さくなってあちこちにヒューと飛散して行った。

ブワン!パチン!パチンパチン、プチンプチン!
と弾ける音がしていた時、
真っ白い世界の花子さんは、その音を合図に再び目を覚ました。
夢を見ていたのかな。眠っていたかもしれない。でも別に眠くも無い。
多分これで、もう終わり。
今回の遊びは、やっと終わったんだな。
またこんな事が起きるのかな。。
今回も、誰とも遊べなかったな。
次はちゃんとお友達と遊べると良いなぁ。
血まみれお化けは会いたくないなぁ。。
お友達がココに来てくれたら良いのになぁ。
いつになったらそうなるのかなぁ。
そのまま花子さんは、ゆっくり消えるように真っ白い世界の闇に溶けていってしまった。

あちこちに飛散した空気の塵は、風に乗り、水の流れに乗り、色んな場所へ拡散されていった。
ペタリと何処かの場所に張り付いて、あらゆる生き物の不平や不満、それから怒り、恐怖心を餌に大きくなって行った。
 動きまわれるほどの大きさになると、互いの触手を伸ばし合い、合体して更に大きくなっていった。
長い時間をかけて、ゆっくり移動をして、次の場所と獲物を待ち続けていた。



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