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チョコレートブラウンの板塀のある家

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記憶の中の人達 愛理の思い通りには動いてくれません。
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2024年6月の記事一覧

チョコレートブラウンの板塀のある家 7

前の記事 雲ひとつない空は恐ろしくさえ感じる いつもと変わらない景色の中を風が泳いでいる。明日は雨なのだろうか、小鳥が車の屋根スレスレに滑空して行く。 母の旅立 施設に入所して15年目、母のアキヨは旅立った。 肺炎を患い急遽入院するも、処置の甲斐もなく、長子が見守る中寂しい生涯を閉じた。 職場にいた雄介の携帯に、呼吸器をつけた母が表情を歪めながらピースする写真が送られてきた。淋しさからか、否、苦痛からか目尻に白く光るものが見えた。雄介と愛理が駆けつけた時、既に母は愛す

チョコレートブラウンの板塀のある家 6

前の記事 正規のルートがあった! 叔父の啓介と昔話に花を咲かせていると、沢の辺りから全く役に立たなくなっていた雄介の携帯電話が、突然振動を始め、黒電話の仰々しいベルの音が鳴り響いた。 雄介が赤木家の再訪を果たした頃は、まだ携帯電話の方が幅を利かせていた。ずっと後になってスマホが普及したような気がする。 愛理が電話の向こうで、不機嫌だがそれ以上に心配そうに「一体、何処にいるの?おばさん達に会えた?事故してない?」と矢継ぎ早に質問を浴びせかけてきた。無事叔父さんに逢えたこと