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扇子プロジェクト

先日、新しい価値ある工芸品を作りたいと、同じ志の皆さんとプロジェクトを組んで、ほぼ一年かけて扇子ヲ作成しました。その時の企画説明文です。第一回の催事が終わりこれから発展させていきたいと思ってます。


扇子プロジェクト 発案の背景について

① 「新しい価値の創造」という意味
現代、日本において忘れ去られようとしている、長い歴史に培われてきた技と美の再発見を行うこと。その技を現代の生活様式に合うように変革して、次の時代につながる新たな価値ある作品として伝えること。伝統の継承であると同時に伝統の進化を果たし、新たな価値をつくることでもあります。

その取り組みとして、高級きものの文化を支えてきた丹後ちりめんの産地と、高度な技を継承してきた京扇子の工房のコラボにより、日本の文化の継承の一端を担えないかという取り組みです。

きっかけは、丹後ちりめん創業300周年事業の一環として、フランスの扇子工房と丹後織物工業組合が行った、丹後ちりめんの生地を使った仏扇子工房の扇子制作でした。パリで開催された発表会では、現地で好評を博して丹後ちりめんの現地での評価を高めました。また、昨年には、フランスの人間国宝による扇子制作が行われ、伊勢丹新宿本店などで発表が行われ、日本でも衝撃を持って受け止められました。
この、一連の流れから、視点を変えて、日本の扇子の技でも同じようにデザインと素材を見直したら、新しい扇子文化が生まれるのではないかと思い至ったのです。(日本の扇子を取り巻く現状については、後ほど記述)。

(フランスの工房と丹後織物組合の扇子プロジェクトについては、下記のYouTubeでご覧ください。)
https://www.youtube.com/watch?v=1zR3zUscF0k


(なお、扇子は、日本で生まれ、ヨーロッパ、中国にも伝播しました。それぞれの国で独自に進化を遂げて、使われ方、作り方の差はそれぞれに発展しました。日本では、明治初期から、海外へ大量に輸出され外貨獲得の大切な輸出品として貢献しました。当時から扇子の生産地として京都地区、東京(江戸)地区、名古屋地区が扇子の大産地とされてきました。)

② 扇子業界を取り巻く環境と背景
扇子は夏のアイテムとして、日本人の生活に長く取り入れられてきました。その市場規模は大きく、近年は大量生産、大量販売がシェアを拡大させてきました。一夏の使い捨てとでも言える消耗品として扱われる機会が増えていたように見えます。従って、コストを抑えるために、中国などで大量に委託生産するケース、素材も化学繊維、劣悪な紙素材を使う製品が多く出回るようになりました。この動きは、国内で扇子の製造を支えてきた、家内製手工業主体の製造現場を疲弊させて、廃業、後継者不足による伝統的な技の継承を途絶えさせる危機的な状況を生み出しています。

扇子の市場は、舞用の扇、装飾用の装飾扇、茶席用の茶席扇など、日本文化と共に伝えられてきた歴史もあります。この文化とともに高質で、美しい扇子づくりの文化も継承されてきました。一般用に使われる風を送る扇子と文化と共にある扇子の両方を製作しながら、扇子の工房は生業を営んできました。日本の工房が疲弊することは、日本の扇子の文化も疲弊することにつながります。

また、大量生産、大量消費の扇子を取り巻く環境が、本来の扇子の美しさに対する日本人の関心を削ぎ、身近な伝統美に触れる機会をなくすことで、日本文化の衰退に拍車をかけることにもなるのです。また、残念なことに、近年、携帯用の廉価な扇風機がブーうになり、扇子そのものの販売量が落ち、また、冷房設備のあらゆる場への普及は、扇子そのものの必要性の低下につながっています。

扇子の文化の見直しと、新しい価値として再度、日本の市場に扇子を提案することが、今、大変重要な取り組みと考えます。

扇子をお客様から洋装にも、和装に求められるファッションアイテムとして再度提案する。そのための、素材とデザインと品質を備えた作品作りを目指す。日本の絹織物と扇子がフランスで注目されているように、日本の技で作った扇子が評価されるようにな提案を。高い志ですが、その一歩を踏めたらと考えます。
今回の小さなプロジェクトではありますが、参加の工房はいずれも業界では意欲ある工房として、そして若い後継者が次の時代を目指して頑張っている工房です。


  補足)なぜ京都の扇子なのか
  扇子の大産地として京都と東京と名古屋があります。名古屋扇子も発祥は、京都から移住してきた扇子の職人が、尾張の地で始めたのが名古屋扇子として始まりました。その後、名古屋地区は、大量生産の廉価な扇子づくりが得意な産地として、輸出で大きく成果を得ました。これは陶器の業界でも同じで、瀬戸も輸出を得意とした産地でした。(ちなみに江戸扇子は、分業でなく、個人で全工程を制作する扇子づくりで、粋を重んじた絵柄で大胆な模様に特徴があります。大量生産には向かない扇子づくりでした。)

  今回のプロジェクトで選んだ絹扇子の技は、京都に優れた工房が継承されました。京都は、舞、飾り、茶席用などの高級な扇子づくりの道を進みました。
 絹扇子と紙扇子の製造業界は、制作工程はほとんど別業界とも言えるような、違った工程であり、従って、材料、下請けを含めて業界も別業界になります。絹扇子は京都の産地の業界があって初めて制作できる扇子です。

今回は、丹後ちりめんとのコラボをメインとしますので、絹扇子をプロジェクトの作品としました。丹後ちりめんの生地と絹扇子と紙扇子の技法を合わせた作品を制作いたしました。それぞれの工房の力が発揮されています。それぞれの強みを活かしたコラボ作品制作を行なっています。

2020年4月


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