it's alright it's okay


BBCの連続ドラマ「New tricks」をシーズン11までみました。1シーズン8話として88。長い。テレビでは「北の国から」以来、映画では「寅さん」シリーズ以来です。
New tricksは日本タイトルでは「退職刑事の事件簿」。退社した刑事たちが、敏腕女性警部に率いられたロンドン警視庁の未解決事件の特別捜査チームで活躍するとういうお話。個性豊かな元刑事が、長年の経験と勘を武器に科学的捜査で行き詰まってた未解決事件を解決していきます。日本と同じようにヨーロッパも社会が高齢化しているためか、ドラマもこのような設定が視聴者にウケるのかも。でも、このシリーズの脚本は面白い。人物設定も一話ごとの設定と、筋運びも思わず引き込まれるぐらい。
藤沢修平の「三屋清左衛門残日録」。もう亡くなった好きなジャーナリストが60を超えた時に、同じような年代の人に勧めた小説でした。江戸時代の地方のある藩の要職を務めた侍が家督を譲って隠居する。しかしながら、昔の繋がりが切れずに助けを求めてくる事件の数々に関わり解決していく短編集。東北の小藩の城下町の風情と山と川の風景を織り込みながら詩情豊かに物語が紡がれます。
「LIFE SPAN 老いなき世界」で遺伝学の権威のシンクレア教授が指摘しているように、健康寿命が伸び、120歳まで生きる人が当たり前になる時代がすぐそこまで来ているとするなら、今まで以上に高齢化の定義を再定義する必要と、社会のあり方までも変更する必要が迫ってます。日本の雇用慣行の定年制、年功序列といった根強い考え方と制度は変更されねばなりません。長年の経験と勘が、科学的な検証と推論と合力したときには新しい可能性がまた生まれるのでしょう。

ものづくりの現場が好きで、百貨店の現場にいた時から好んで作家さん、職人さんたちの工房、職場を訪ねてました。この人たちの作品を「販売する」ということについても、社会の変化が大きい今の時代を反映して大きな変化が現れています。よくご存知のように、snsを活用して、作り手が直接顧客と繋がるのが当たり前になり、小売という仕事の助けを借りずに売買が成り立ちます。また、実店舗販売の小売に代わって、オンラインショップやプロモーターが作家と消費者をつないでいます。さまざまな情報機器や技術が登場してその精度はますます良くなっています。新型コロナ感染症が広まってからは、特にこの傾向が強まったようです。あるいは、中国を中心としてインバンドで購買されていた売上がなくなったと悲鳴を上げてたら、中国人バイヤーによる、動画の日本の売場からのリアルタイム配信で購買が一部地域の百貨店で別に形で戻ってきたとういう話題も入ってきています。しかしながらこれらの形態は、情報の発信と受けて側の興味の度合の関係で成立しています。残念ながら、どんなに工夫をしようともワンウェイの情報の行き来を基本に成り立っています。
 接客という小売の現場のノウハウでは、販売員は商品知識というノウハウを経験と勉強とを重ねて身につけます。接客にあたっては、お客様の要望と関心を聞き出しながら、言葉にならない感情の部分を目の動き、体の動きから察しながら掴んでいきます。その場の空気感までもが情報になっていきます。提案が必要な場合は提案を経験と知識から行います。そんな中から、こんなものがあったらいいのにという、新製品のアイディアも生まれてきます。コロナの時代にリアルな接客の場が少なくなりました。加えて、コロナ以前から、小売市場の変化から、コスト削減という「経営努力」で、小売の現場から販売のベテランがどんどんいなくなって行きました。

 日本は工芸王国と言っても差し支えないかと思います。江戸時代後期から明治初期は最も工芸品が精度をました時代と言われてます。鎖国から開国に舵を切った日本からさまざまな工芸品が海外に流出しました。浮世絵は有名なところで、同時代のヨーロッパの画壇にまで大きな影響を与えました。ゴッホの自画像に描かれている背景の浮世絵は、谷中のいせ辰のものとわかっています。モネもマネも浮世絵の影響を受けました。漆器の柴田是氏始め名工の作品の数々は今やアメリカのメトロポリタン美術館に。世界の美術の世界の範疇に工芸というジャンルがなく、それが工芸品の世界でのステイタスを低めている。近年工芸品を含めてアートの範疇の見直しを、西洋美術中心の考えから改めようという動きが、広がってきているようです。現代アートというジャンルが爆発的に広がったのも原因になっているのかなとも思ったりします。しかしながら、日本の工芸が再評価されることは歓迎したいのですが、その一方で、工芸を支える職人の後継者不足。もっと深刻なのは、職人が使う道具を作る道具屋さんの職人と材料が枯渇しかけています。工芸の産業基盤が失われようとしています。
伝統工芸は伝統の延長線上で、ものづくりを続けても評価されるものができるわけでもなく、伝統の上に立って、次の時代に生きる形であるとか機能であるとか、デザインが求められます。多分、それは、進化した情報ツールと共に、リアルな現場での作品を介した言葉と感情のやりとりから生まれる経験がヒントとなって生まれるものだと思います。手遅れにならないうちに、工芸が評価されて、販売に繋がり、お金が制作現場に流れて、産業基盤として成り立つ動きが必要です。そのためには、努力し続ける若手ベテラン問わず、次の時代に残る工芸の世界を繋ごうという努力を応援しなければなりません。具体的には「売れる」ことにを演出することだと思っています。そのために、自分の経験と人脈を使いながら活動することしかありません。三屋清左衛門のごとく、New tricksの退職デカのごとく、New tricksの主題歌I t’s Alright, I t’s Okay を歌いながら走り続けるしかないかと思ってます。


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