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32.蝶よ花よ異世界よ魔人よ

 ここじゃない遠くへ。
 なんて歌の歌詞では常套句ですが僕は子供の頃本気でそれに思いを馳せることが多々ありました。

 現状に不満があるとか、親や教師への反応とかそんな大層なものではなくて、例えばあの団地の向こう側ってどうなっているんやろうか? とか、例えばこの川に沿ってずーっと下っていったら海に着くんやろうか? そこはどこの海岸でなんて名前の海なんやろうか? とか。

 そんなんばっか考えてふらふらどっか行ってまうような子供でしたから、通知表には「大人しいようで落ち着きがない」やら「反抗的な態度は取らないがとにかく話を聞いていない」やら「精神的に傷というか穴がある」やらさんざん書かれてしまって。
 1番最後は家庭環境の偏見入ってるやろとは思うんですけどね。

 僕は別に何か思い悩んでそうしたわけではないし、上手く生きてはいけてないんですがずっとそこそこ恙無い暮らしができています。

 ただ、視界に入る1番遠くのもののその向こうが気になる。
 もしかしたら異世界あるかも? ゲームのバグで裏世界なるものがあると聞きました。素敵ですね。あの団地の向こう側は裏世界かもしれないなら、それはぼんやり思い耽るに値する空想です。

 正味遠くじゃなくてもいいんですよ。
 あの蝶々とか羽虫さっきから飛び回ってるけど最終的にどこ行くんやろうなぁ、あの黄色い花って花弁の裏側の付け根どうなってるんやろう多分やけどキモそうやなぁ、とか。

 そうやって小学生の頃とかにチャリかっ飛ばしては団地の向こう行ったり3日かけて川下ったりして、「なんやこんなもんか」と落胆する繰り返し。
 でもめげずに遠く遠くを見ている僕に中2の夏についたあだ名は「魔人小崎」でした。
 やめてくれや、なんか縁起悪いし。
 ヱビスくん♡って呼んでよ。

 まあ。
 相方しててくれたひろくんが漫才中僕を平気で「小崎くん」って呼び続けたんで無意味ですけどね。
 ヱビスってつけたんお前やんひろくん……みんな俺のこと小崎って呼ぶねんけど……。
 でも僕もひろくんって呼びすぎたな。ちゃんと中村ひろたけやのにね。それはほんまごめんね。

 ところで異世界裏世界を夢見て遠く遠くに思いを馳せる人生ですが、あの世はなんかピンと来おへんのですよね。
 電車の窓の外から見える遠くの山の向こうにひろくん普通にいてる気がしている、まだ。

 え、やば。
 さみし。
 ひろくんから食らったグーパンとなくされたモンクレールの帽子のこと考えてちょっとひろくんのこと嫌いになるフェイズ入りますね。

 あとひろくん高校のとき僕のスクバにとりもち入れたんほんまに許してません、謝りに来てください。

 あ、でも絶対に許しませんが泣きながら怒鳴り込んだ僕に対する自室の窓際に腰掛けた君の「小崎くんは真っ先に僕を疑うと思っていたよ」と言いつつメガネカチャカチャやってたあれ、めっちゃ強キャラの雰囲気出てて悔しかったです。

 なんであのメガネかち割らんかったんやろうか、僕は。

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