『宗教2世サバイバルガイド』を読んで
『宗教2世サバイバルガイド』が先月発売されたとき、私は結構焦っていました。
7月16日に横浜で出版記念講演会があるので、そのときまでに読んでおきたい。けれど、著者の正木伸城さんは私の数年先輩なので、世代的にもかなり近い、共感する体験が多くて、読み進めると感情移入し過ぎて泣いてしまう。通勤時間や家族がいるときには読めないので、家で一人になったときに一気に読むしかなかったんです。
あと、2023年2月に行われた創価2世トークショーのときに、ジャーナリストの藤倉善郎さんが警告していたように、正木さんのTwitterにアンチが群がっていたので『宗教2世サバイバルガイド』のAmazonレビューも絶対荒れるでしょ!って思ってたんですよね(フェミニズムのアクティビストはしょっちゅうこういうバックラッシュに遭っている)。
だから早く読んでレビュー書かなきゃ!!!でも泣き過ぎて読めん!!!!!と焦ってたけど、蓋を開けてみればかなり学問的な内容のせいか、深い内容のレビューが多くて、そこまで荒れてなくてほっとしました。
いや「なぜ退会しないのか」とか「もっとしっかり祈って乗り越えて欲しかった」みたいな、私から見ると「お門違いだな」と思うようなレビューはあったけどまあ、許容範囲です。
というか、そういうレビューが1個か2個あったほうが、逆に信憑性増すからありがたいという考え方もできるし。
というわけでAmazonには短文の読みやすいレビューを後日書くとして、明日の講演会を聴く前に書いた私の感想は、ここに残しておこうと思います。
私は創価3世です。私も正木さんと同じく、熱心な2世信者の両親の元に生まれ、中学校~大学まで創価学園に通いましたが、わけあって今は信仰から離れています。
新興宗教の信者で、信仰に疲れている人、宗教1世2世の親との関係に悩んでいる人にとっては、役立つ内容だと思います。信仰をやめろとか、退会しろとか言わないところが特にいいですね。
そういう立場でそういうこと言えるのは、創価学会3世だからこそかもしれません。
逆に言えば、信仰を押し付けてくる親を宗教毒親として認定し、強く非難したいとか、絶縁したい、退会するためのハウツーが知りたいという要望は満たしていないかもしれません。グレーなものはグレーなまま自分が生きたいように生きようぜ、という提案というか。
テレビで報道されたり事件化するような宗教2世って深刻な虐待やネグレクトに遭っていて(これは絶縁せざるを得ないだろうな……)というケースが多いですが(山上徹也容疑者もそうですよね)、でも現実問題としては正木さんのように宗教思想的には親と距離を取りつつ、絶縁・退会まではしない/できないけど付かず離れず付き合っていく、という道を選ぶ宗教2世も多いのではないでしょうか。私自身もそうです。巻末のインタビューでも、「創価学会はカルト性が低い」と江川紹子氏が話していますが、創価学会を含め特定の教団を「カルトだ!」と一方的に断じて批判するものではないことを評価したいです。
創価学会の3世であり、元職員の正木伸城氏が本を出すと聞いて、著者の自伝的な内容(小川さゆりさんの本みたいな)になるのかな?と想像していたのですが、正木さんの壮絶な半生については各章に少しずつ触れられているだけで、どのように宗教団体の全体主義や家族・信者からの抑圧と闘うかということが学術的な観点から語られています。
「宗教毒親にこういう風に言われたらどう答えればいいか?」みたいなハウツーではないので、とっつきにくいし自分のものとして落とし込むまで時間がかかりそうな反面、いろんな宗教2世に対応できそうな、かなり普遍的な内容になっています。
宗教団体の職員を辞めた正木さんの再就職の話とか、もう読みたくてたまらなくてすごく楽しみだったのですが(だってそんな数奇なキャリアを辿って、わざわざ文章に書いてくれる人もそんなにいないでしょう)、いざ読んでみたら素晴らしい内容に感銘を受けましたがしかし、「これを読んでそのまま真似しようと思う人はいないだろうな……」とも思いました。
↑この部分だけでも読んでみて、自分が創価学会の本部職員だったとして、やめようと思うか考えてみてほしい。私だったら不本意でもやめられないと思う。
それはこの本が再就職のハウツー本ではないからですが、再現性がないと感じる人もいるだろうなと。
溺れる者は藁をもつかむような状況で、「『与える』ことが解決につながることもあるよ!」と言われても、じゃっかわしいわ!ってなるかもしれない。
ただ、振り返ってみると、私自身も創価学会から離れたときに多かれ少なかれ彼と似たような経験をして、似たような対処をしているなあ……と思うんですよね。そういう意味では『与えること』が普遍的な解決につながるんだよねと。
生存者バイアスと言われればそうなんですけど、では、生き残った我らで語らずして、誰が創価3世の話をしてくれるのか?
というわけで、彼が今宗教2世から求められているものと、お出しできるものの最大公約数がこういう問答集の形になったのかな?と感じました。
創価学園や創価大学の卒業生であれば「学園あるある」として楽しめる(?)面もありますが(正木さんの元カノの創価学会に対する発言とか、かなり笑いました。すっげーリアル。こういうの、他の宗教2世も心当たりある人いるんじゃないかな?)、創価学園と一切関係なく、進学にも苦労して生活してきた学会員(特に貧しい家庭)からすると、イライラする部分もあるのかも。
私の周囲にも、学会員ということで一般女性から避けられ、恋愛や結婚と無縁の生活になってしまった男性がいるので、そういう創価製インセルからしたら「正木め!チャラチャラしやがって!」ってなるのだろうなと。
統一教会の中にも「祝福2世と信仰2世は違うので同じ信者同士でも結婚ができない」などの、階級のようなものがあるらしいと聞いたことがあって、(ひえええ~恐ろしい教団じゃ!!!)と他人事のように思っていました。
が、創価学会の中にも厳然と階層があり、正木さんがヒエラルキーの上の方にいたのは間違いありません。それは彼だけの責任ではないですが、下の方で幹部たちに踏みつけられたと認識している人にとっては、読むのが不愉快なのもわかります。
そういう意味では創価学会以外の宗教2世の方が、この本をフラットに評価できるのかもしれません。
創価学会2世3世で有名な方としては『神様のいる家で育ちました』の菊池真理子先生がいらっしゃいますが、50歳の先生が漫画の中で告発している創価学会の実態は40年ほど前のもので、そのことで彼女の作品や活動の価値が損なわれることはないけれど、もっと最近の実態を話してくれる方がいたらいいなあと思っていました。
そうはいっても学会員として元々有名な芸能人の方たちは、駆け出し時代から学会員が地域ぐるみで応援しているものです。その人たちが仮に30代40代になって信仰に違和感を持ったとしても、応援してくれた人たちの手前、「嫌だった」なんて言えないだろうし。
すごい失礼な言い方ですけど、長井秀和氏の場合は、芸人として長期的な成功を収めなかったからこそ、創価学会を告発できる部分があると思います。ジャニーズの性加害問題で、キャリアのあるトップアイドルほど被害を告発できないのに似てますね。
そういった構造の中で、顔出し実名で、「勤行唱題の実践をしていない」「退会もしていない」と明言してこの著作を発表することは意義のあることである反面、非常に勇気がいったと思います。
退会した信者からも、現役信者からも非難されますからね。
そんな中でこの本を出してくれたことを評価し、感謝したいと思います。
そういう意味では『元理事長の息子という特殊な3世信者の自伝』ではなく『自分の特殊な経験も語りつつも、宗教2世としての処世術を語る』という内容にしたのもすごくよかったですね。
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