大は小を兼ねる(だいはしょうをかねる)

古びた家具店を営む高橋慎吾は、職人気質で知られる男だった。彼の店には、どっしりとした重厚な家具が並んでおり、そのすべてが手作りで、一点一点にこだわりが詰まっていた。しかし、慎吾の店にはある評判がついていた。それは「すべてが大きすぎる」ということだった。

ある日、若い夫婦が慎吾の店を訪れた。二人は新婚で、ささやかな新居に合う家具を探していたが、店に入ると、すぐにその家具の大きさに圧倒された。

「これじゃ、うちのリビングには入らないよね…?」妻が夫に囁いた。

夫は慎吾に向かって尋ねた。「あの、もう少し小さめの家具ってありますか?新居が狭くて、大きい家具はちょっと置けないんです。」

慎吾は一瞬考えた後、にっこりと笑った。「確かに、うちの家具は大きい。でも、覚えておいてほしいんです。『大は小を兼ねる』ということわざがあるように、大きなものは小さなものよりも多くの役割を果たせるんですよ。」

「でも、家が狭いと、ちょっと…」妻は困惑した様子で答えた。

慎吾はふと店の隅に目を向け、一つの大きなダイニングテーブルを指差した。「このテーブルを見てください。大きくて頑丈な作りですが、その分、多用途に使えます。家族や友人が集まる時には広々と使えますし、普段は片方を折りたたんで使えば、スペースを有効に活用できます。大きいからこそ、柔軟に対応できるんです。」

夫婦は慎吾の言葉に耳を傾けながら、改めてそのテーブルを見つめた。確かに大きいが、慎吾が言う通り、その大きさには利点があるように感じられた。

「他にも、こういった大きめの家具は、将来的に家族が増えたり、引っ越して広い家に住むことになった時に、きっと役立つはずです。逆に小さな家具だと、その時には使い勝手が悪くなるかもしれませんよ。」

慎吾の言葉に心を動かされた夫婦は、最終的にその大きなテーブルを購入することに決めた。新居に運び込まれたテーブルは、その存在感とともに、家の中心的な場所を占めることになった。結局、そのテーブルは夫婦の生活に欠かせない存在となり、家族や友人たちが集うたびに、その大きさと頑丈さが重宝された。

数年後、夫婦は子どもが生まれ、さらに広い家に引っ越したが、そのテーブルは変わらずリビングに置かれ、家族の温かな日常を支え続けていた。

ことわざから小説を執筆 #田記正規 #読み方

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