田記正規

田記正規

最近の記事

五十歩百歩(ごじゅっぽひゃっぽ)

大学の友人・健太と真司は、いつも成績についてお互いをけなし合うような関係だった。健太はテストで60点を取り、「この科目は難しいからしょうがない」と自分を正当化し、真司も55点を取って「俺もまあまあじゃないか」と胸を張っていた。 ある日、大学の教授が「五十歩百歩」という言葉について話を始めた。「この言葉は戦場で逃げる兵士たちの距離を表したものです。五十歩逃げた者が百歩逃げた者を笑ったとしても、結局は同じ逃げていることに変わりない、と言われます」と説明した。 授業が終わると、

    • 壺中の天地(こちゅうのてんち)

      村上(むらかみ)は仕事に追われる都会の生活に嫌気がさし、家と会社を往復するだけの日々に疲れ果てていた。目まぐるしい日常を逃れたいと思っても、すぐにどこかへ行ける余裕などない。ある夜、ふと立ち寄った古びた骨董品店で、一つの小さな壺に目を留めた。その壺には見慣れない模様が刻まれており、手に取ると何故か心が和らぐような気がした。 店主に「これはどんな壺ですか?」と尋ねると、店主は微笑みながら答えた。「これは『壺中の天地』。中に不思議な空間が広がっていて、時がゆっくり流れるのですよ

      • 子は三界の首枷(こはさんがいのくびかせ)

        三枝(さえ)は、30代半ばのシングルマザーで、5歳になる息子・大輔を育てていた。彼女は、家庭と仕事を両立させるため、昼夜問わず奮闘していたが、ふとした時に心の中で「子は三界の首枷」ということわざを思い出してはため息をついていた。 子どもの存在が縛りになるわけではないが、将来の不安や責任の重さを感じる時、この言葉の意味が身にしみるようだった。友人たちが自由に旅行を楽しんでいるのを聞いたり、仕事に全力で打ち込む同僚たちを見たりするたび、三枝は自分の「自由」が失われているように感

        • 田作の歯軋り(ごまめのはぎしり)

          陽一は小さな町工場の職人で、日々黙々と自分の仕事に取り組んでいた。彼の技術は確かだったが、会社の規模も影響し、大手と比べて受注が少ない状況が続いていた。そんな中、町全体で開催される製品発表会の知らせが届いた。陽一は自分の腕を試したいと思い、新たに工夫を凝らした製品を準備することにした。 発表会当日、陽一の工場のブースは大きな企業に囲まれ、どこか陰に追いやられたように見えた。展示を始めたものの、大勢の人々は目の前の大手の派手なブースに惹きつけられ、陽一の工場を覗く人はまばらだ

        五十歩百歩(ごじゅっぽひゃっぽ)

          子ゆえの闇(こゆえのやみ)

          雪が降り積もる冬の夜、加代子はふと、自分の息子・拓也の部屋を訪れた。拓也は受験を控えており、日夜机に向かって勉強に励んでいるように見えていた。しかし最近、どこか上の空のような態度が目立つようになり、彼が本当に勉強に集中しているのか気になっていたのだ。 「拓也、ちゃんと勉強しているのかい?」と部屋に入ると、彼は一瞬驚いた表情を見せ、机の上の何かを急いで隠した。その動きに不信感を覚えた加代子は、「それ、何?」と尋ねたが、拓也は「別に、大したものじゃない」と目を逸らして答えた。

          子ゆえの闇(こゆえのやみ)

          転ばぬ先の杖(ころばぬさきのつえ)

          小さな田舎町に住む絵里子は、慎重で知られる性格だった。何事も計画を立て、予防策を講じるのが彼女の信条で、家族や友人からは「転ばぬ先の杖」として親しまれていた。 ある日、絵里子は友人たちと山にハイキングに行くことになった。山道は険しく、滑りやすい場所も多いことで知られていたため、絵里子は事前にしっかり準備をした。登山靴に滑り止め、救急キット、さらには悪天候用のレインコートまで、かばんの中は予防策でぎっしりだった。 一方、友人たちは「天気は晴れだし、大丈夫だよ」と楽観的で、軽

          転ばぬ先の杖(ころばぬさきのつえ)

          塞翁が馬(さいおうがうま)

          辺境の小さな村に、慎重な性格の男、栄次が住んでいた。栄次は何事にも計画を立て、リスクを避けて生きることを信条としていた。 ある日、栄次の隣村の商人が、希少な薬草がたくさん取れる場所を見つけたと噂話を持ちかけてきた。その薬草は非常に高値で取引されるもので、栄次は少しばかり興味を持ったが、詳しく調べずに動くのは不安だった。 それから数日後、隣村の商人が他の村人を集め、薬草採集を開始すると、噂通り豊かな収穫を得たのだと見せびらかした。村人たちは栄次を笑い、「機会を逃したな」とか

          塞翁が馬(さいおうがうま)

          先んずれば人を制す

          「先んずれば人を制す(さきんずればひとをせいす)」とは、「他人よりも先に行動すれば、主導権を握ることができる」という意味のことわざです。先手を打つことで、状況を有利に進めたり、相手の出方を制御したりできることを教えており、準備や行動の速さの重要性を説いています。 この言葉には、「チャンスを掴むには決断力が重要で、ためらわずに行動する者が優位に立てる」という教訓も含まれています。 ことわざから小説を執筆
#田記正規 #読み方

          先んずれば人を制す

          策士策に溺れる

          「策士策に溺れる(さくしさくにおぼれる)」は、「巧妙な策略を考える人ほど、かえって自分の策に振り回されて失敗することがある」という意味のことわざです。たとえ計略に長けた者であっても、策にこだわりすぎたり、過信したりすると、かえってその策によって自らを苦境に陥れることがある、という教訓です。 このことわざの背景には、「策を弄する者は、時にその策が予期せぬ方向に作用してしまう」という戒めが含まれています。柔軟な発想と冷静な判断を持つことが重要で、状況に応じて策を見直し、自己を見

          策士策に溺れる

          酒は百薬の長(さけはひゃくやくのちょう)

          「酒の味」 秋の夜、仕事帰りに常連の居酒屋に寄った中村啓一は、カウンターに座りながら静かに杯を傾けていた。彼にとって、仕事終わりの一杯は何よりも楽しみだった。特にこの店の地酒は、どれも絶品で、疲れた心と体をゆっくりと癒してくれる。 「今日もお疲れさん、啓一さん。」 店主の大塚は、にこやかに声をかけながら、啓一にお猪口を差し出した。啓一は微笑みながら、その酒を受け取った。 「いや、これがないと一日が終わらないよ。」 啓一は酒を口に含むと、ほんのりとした甘みと、深い香り

          酒は百薬の長(さけはひゃくやくのちょう)

          五月の鯉の吹流し(さつきのこいのふきながし)

          「中身のない自信」 佐藤陽介は、誰もが羨むような外見と経歴を持つ青年だった。大学は名門、見た目も整っており、スーツを着ればまるで雑誌のモデルのようだ。周囲の人々は彼を「成功者」として扱い、彼自身もその評価に酔いしれていた。 就職活動では、企業からのオファーが次々と舞い込んだ。彼は自分の市場価値を確信し、特に努力することなく内定を勝ち取った。新卒で入社した大手商社でも、最初はその華やかな経歴と堂々とした態度で、上司や同僚の注目を集めた。 だが、仕事が始まるとすぐに問題が表

          五月の鯉の吹流し(さつきのこいのふきながし)

          猿も木から落ちる(さるもきからおちる)

          「完璧主義者の失敗」 渡辺修二は、自他ともに認める完璧主義者だった。職場ではどんな仕事も完璧にこなし、細かいところまで気を配り、部下からも上司からも信頼されていた。誰もが「渡辺さんに任せておけば安心だ」と口にする。ミスを一度もしない彼は、周囲からは尊敬の対象であり、誰もがその姿に憧れていた。 そんな渡辺にとって、仕事でのミスはあり得ないことだった。だからこそ、いつも自分に厳しく、どんなに小さなタスクでも全力で取り組んでいた。完璧であることこそが、自分の存在意義だと感じてい

          猿も木から落ちる(さるもきからおちる)

          去る者は追わず(さるものはおわず)

          「新しい風」 春の風が優しく街を包み込む午後、彩子はカフェの窓から外を見つめていた。東京の喧騒が、遠くから聞こえるように思えた。彼女の前には、メッセージアプリの画面が開かれたままだが、そこにある名前に指を滑らせることはない。 「もう一年か…」 彼女は小さくつぶやき、コーヒーを一口飲んだ。彼との別れからちょうど一年が経とうとしていた。付き合い始めた当初は、互いに深く愛し合い、毎日のように連絡を取り合っていた。だが、彼の仕事が忙しくなるにつれて、少しずつ二人の間には距離がで

          去る者は追わず(さるものはおわず)

          去る者は日々に疎し(さるものはひびにうとし)

          「去りゆく絆」 三年前、大学を卒業する日、健太と優斗は固い握手を交わした。二人は幼い頃からの親友で、同じ大学に進学し、何事も一緒に乗り越えてきた。卒業後、健太は地元の会社に就職し、優斗は都会の一流企業に採用された。 「どんなに離れていても、俺たちはずっと親友だよな」と優斗は言い、健太も頷いた。しかし、別れの瞬間はあっという間に訪れ、互いに新しい生活が始まった。 最初のうちは、頻繁に連絡を取り合い、互いの近況を話し合っていた。週末にはオンラインゲームを一緒に楽しんだり、た

          去る者は日々に疎し(さるものはひびにうとし)

          触らぬ神に祟りなし(さわらぬかみにたたりなし)

          「静かなる選択」 佐藤は、職場での人間関係に常に気を遣っていた。特に同僚の田中は、何かと問題を引き起こすトラブルメーカーだった。最近では、部署内でのあるプロジェクトの進め方について、田中が強く主張し始め、周囲を巻き込んで争いを起こしていた。上司や他の同僚たちもその意見に振り回され、職場の空気はどんどん悪くなっていた。 ある日、田中は佐藤に「お前はどう思う?」と突然問いかけた。プロジェクトの進め方について賛成か反対か、明確に立場を示して欲しいというのだ。しかし、佐藤は内心困

          触らぬ神に祟りなし(さわらぬかみにたたりなし)

          三顧の礼(さんこのれい)

          「再びのお願い」 小さな町工場を経営している拓也は、経営の立て直しに頭を抱えていた。資金繰りは厳しく、従業員の給料もままならない状況だった。かつては町で評判の工場だったが、時代の変化とともに注文は減り、立ち行かなくなっていた。 ある日、拓也は知人からある噂を聞いた。「経営コンサルタントの山本は、数多くの企業を救った天才だ」という話だった。最初は半信半疑だったが、背に腹は代えられないと考え、山本に連絡を取ることにした。 しかし、山本は忙しいと言って、なかなか会ってくれなか

          三顧の礼(さんこのれい)