年には勝てぬ(としにはかてぬ)

小さな港町、ハマタニには、海の男たちが住んでいました。その中でも特に名高い漁師、サブロウは、若い頃から海の荒波と戦い続け、多くの魚を捕って家族を養ってきました。彼は海のことなら何でも知っていると評判で、若者たちからも尊敬されていました。

しかし、サブロウも今では七十歳を越え、体力の衰えを感じ始めていました。彼はまだ海に出ることを諦めたくなかったのですが、家族や仲間たちは心配していました。「年には勝てぬ」という言葉が村のあちこちでささやかれました。年齢には逆らえない、無理をしない方が良いという意味です。

ある日、サブロウは特に大きな漁をするため、若者たちと共に海に出ることを決意しました。彼の孫、タケシもその船に乗り込みました。タケシは祖父を尊敬しており、彼の知恵と技術を学びたいと常に思っていました。

出港の日、海は静かで、漁は順調に進みました。サブロウは若者たちに指示を出し、自らも網を引きました。しかし、突然天候が変わり、嵐が襲いかかりました。船は激しく揺れ、波が次々と打ち寄せてきました。サブロウは全力で船を操り、嵐を乗り切ろうとしましたが、体力の限界を感じ始めました。

タケシは祖父の苦しそうな姿に気づき、すぐに助けに入りました。「おじいちゃん、もう休んでください。僕たちに任せて!」タケシと他の若者たちは力を合わせて船を操り、なんとか嵐を乗り越えました。サブロウは船の中で息を整えながら、自分の限界を認めざるを得ませんでした。

港に戻った後、サブロウはタケシと二人で話しました。「タケシ、お前たちがいてくれて本当に助かった。俺ももう年だ。若い頃のようにはいかない。でも、お前たちがしっかりしているから安心だ。」

タケシは祖父の手を握り締めました。「おじいちゃん、あなたの知恵と経験は僕たちにとって宝物です。これからは僕たちが頑張ります。でも、まだまだおじいちゃんから学びたいことがたくさんあります。」

サブロウは微笑みながら頷きました。「そうだな。年には勝てぬが、知恵と経験は次の世代に伝えていくものだ。これからも一緒に頑張ろう。」

その後、サブロウは若者たちに海の知識と技術を教える役割に専念しました。彼の知恵と経験は、次の世代にしっかりと受け継がれていきました。村の人々は彼の姿勢を尊敬し、「年には勝てぬ」という言葉が新たな意味を持つようになりました。それは、年齢に逆らうのではなく、知恵と経験を次の世代に伝えることの大切さを教える言葉となりました。

サブロウの物語は、村の人々に希望と勇気を与え続け、年齢を重ねてもなお価値のある存在であることを示しました。そして、若者たちは彼の教えを胸に、より良い未来を築いていきました。

ことわざから小説を執筆 #田記正規 #読み方

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