竹薮に矢を射る(たけやぶにやをいる)

郊外に広がる竹薮は、昔から地元の子供たちの遊び場だった。その中に、一人の少年がいた。彼の名前は直人。弓道を習っている直人は、いつも放課後になると、竹薮にやってきては練習をしていた。だが、目標もなくただ竹薮に矢を放つその姿に、周囲の大人たちは「竹薮に矢を射る」と言って、無駄だと嘆いていた。

直人は、自分でも何を目指しているのか分からないまま、ただ弓を引く日々を続けていた。目標がないその行為は、ただの遊びに過ぎないように見えた。しかし、直人にとっては、それが日常であり、弓道そのものが彼の心の支えでもあった。

ある日、直人は弓道場で尊敬する師匠から声をかけられた。「直人、お前は何を目指して弓を引いているのだ?」師匠の質問に、直人は答えに詰まった。「ただ、弓を引くことが好きで…」

師匠は優しく微笑んだ。「好きで続けることは大事だ。しかし、竹薮に矢を射るような、目標のない行為では、いつか疲れてしまうぞ。目標を見つけるんだ。お前の矢がどこに届くべきかを考えなさい。」

その言葉が直人の心に深く響いた。目標を持たずに続けることが、本当に自分のためになっているのか――そう考えるようになった。直人は自分の中にある情熱を再確認し、弓道で何を成し遂げたいのかを真剣に考え始めた。

それから数週間後、直人は師匠に自分の考えを伝えた。「師匠、僕はもっと強くなりたいです。全国大会に出場して、上位を目指します。」

師匠はその言葉を聞いて、満足そうに頷いた。「よく決心したな。その目標を持てば、お前の矢は無駄に飛ばされることはない。努力は必ず実を結ぶ。」

直人はそれから、練習のたびに具体的な目標を持つようになった。彼は竹薮に矢を放つのをやめ、正確に的を狙う練習に集中した。毎日コツコツと努力を重ねた結果、直人の技術は飛躍的に向上し、ついに全国大会に出場する資格を得た。

大会当日、直人は自分が打った矢が的の中心に突き刺さる瞬間、これまでの努力が無駄ではなかったことを実感した。彼は師匠の言葉通り、しっかりと目標を持ち、そこに向かって進んできたのだ。

竹薮に矢を射るような無駄な努力をしていた日々は、もう過去のものだった。今の彼には、目標に向かって進む明確な道がある。そしてその道は、彼の未来へと繋がっていた。

ことわざから小説を執筆 #田記正規 #読み方

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