獅子身中の虫(しししんちゅうのむし)
「内なる敵」
中小企業である「山口商会」は、創業50年を誇る老舗だった。会長の山口重男は、長年にわたり苦楽を共にしてきた社員たちを信頼し、彼らとともに会社を守り続けていた。会社は小規模ながらも、地元では信頼のある企業であり、取引先からの評価も高かった。
ところが、最近、会社の経営状況が徐々に悪化していた。業績の低下は目立たないものの、なぜか取引先との契約が次々と失敗に終わり、顧客からの信頼も揺らぎ始めていた。原因が特定できないまま、社内には不安と不信感が漂っていた。
「どうしてこんなことに……」山口会長は深いため息をつき、頭を抱えていた。
その時、彼のもとに営業部長の佐藤が現れた。「会長、話があります。実は、社内に裏切り者がいるかもしれません。」
佐藤の言葉に驚きを隠せない山口会長は、急いで詳しい話を聞いた。佐藤によれば、どうやら営業部の中に、会社の重要な機密情報を外部に漏らしている人物がいるという。佐藤はその人物が、取引先の競合企業に情報を流し、山口商会の契約が次々と破談になっていると疑っていた。
「そんな馬鹿な……。我々の中に裏切り者がいるなんて……」山口会長は、信じがたい事実に戸惑いを覚えたが、佐藤の話を聞くうちに、それが真実であることを徐々に認めざるを得なかった。
佐藤はさらに調査を進め、ついに裏切り者の正体を突き止めた。それは、長年山口商会で働いていたベテラン社員の石川だった。彼は表向きは忠実で献身的な社員だったが、実は競合他社から報酬を受け取り、長年にわたって会社の情報を流していたのだ。
「石川が……?」山口会長は信じられないという表情で呟いた。「彼は創業当初から私と一緒にこの会社を支えてきた。まさか、そんなことをするはずがない。」
しかし、事実は否定できなかった。石川は自らの欲望に負け、長年築き上げてきた信頼を裏切っていたのだ。彼はまさに「獅子身中の虫」となり、山口商会という大きな存在を内部から食い荒らしていた。
石川は会社を裏切った代償を支払うことになり、即座に解雇された。しかし、山口会長の胸には深い痛みが残った。長年信頼してきた仲間が裏切り者だったという事実は、彼にとって耐え難いものだった。
「獅子身中の虫……内部の敵が一番恐ろしいものだな。」山口会長は呟きながら、社内を立て直す決意を固めた。信頼を取り戻すために、彼は再び社員たちと力を合わせ、会社を守り続けていく決心をした。