宝の持ち腐れ(たからのもちぐされ)

鈴木良介は、地元で一番の進学校をトップの成績で卒業し、名門大学に進学した。その頭脳明晰さは幼い頃から評判で、彼の未来は約束されたものと誰もが信じていた。しかし、良介は大学に進んだ途端、次第にその輝きを失っていった。

大学では、自分と同じかそれ以上に優れた学生が多く集まっていた。これまでトップであり続けた良介にとって、それは初めての経験だった。彼は徐々に自信を失い、次第に授業にも顔を出さなくなった。図書館に足を運ぶことも減り、友人たちと過ごす時間が増えていった。

「どうして俺は、こんなにダメになってしまったんだろう…」

ある夜、良介は大学の友人、田中に相談した。田中は静かに話を聞き終えると、少し考えてから言った。

「良介、お前は昔から頭が良くて、何でもできる奴だったよな。でも、最近の君を見てると、まるで『宝の持ち腐れ』って感じがするんだ。」

「宝の持ち腐れ?」

「そうさ。君は素晴らしい才能を持っているのに、それを活かしてない。頭の良さや知識は宝物だよ。でも、それを活かさないと、ただの腐った宝に過ぎないんだ。」

田中の言葉に、良介はハッとした。自分が持っている能力や知識を、まるで無駄にしていることに気づかされたのだ。彼は、ただ周囲と比べて落ち込んでいるだけで、自分自身を見つめ直すことをしていなかった。

その日から、良介は少しずつ自分を取り戻す努力を始めた。まずは毎日の授業に出席し、課題に取り組むことで、再び学びの楽しさを感じるようになった。そして、自分の強みを見つけ、それを活かすための道を模索した。

良介は次第に、自分の才能を他の学生と比べるのではなく、自分のペースで活かすことの重要性に気づいた。彼は大学で得た知識を基に、将来の仕事に役立てるための計画を立て始めた。周囲の評価や順位に囚われず、自分がどのように社会に貢献できるかを考えるようになったのだ。

大学を卒業した後、良介は研究者としての道を選んだ。彼は自分の知識を活かし、新しい発見や技術の開発に貢献することを目指した。その姿はかつての彼とは違い、自信と誇りに満ちていた。

「宝の持ち腐れ」だった良介は、今やその宝を存分に活かし、社会に貢献する人間となったのだ。

ことわざから小説を執筆 #田記正規 #読み方

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