東奔西走(とうほんせいそう)

タカシは広告代理店に勤める若手社員で、毎日忙しい日々を送っていた。彼は新しいプロジェクトのリーダーに任命され、成功させるために東奔西走していた。クライアントとの打ち合わせや企画書の作成、チームの管理と、彼の仕事は山積みだった。

ある朝、タカシは早朝の会議のために会社に向かう途中、母からの電話を受け取った。父が急病で入院したという知らせだった。心配する母の声を聞いて、タカシは一瞬足を止めた。しかし、今は仕事が優先だと自分に言い聞かせ、その日は会社に向かった。

会社に着くと、次々と予定が詰まっていることに気づいた。クライアントとのミーティング、プレゼンテーションの準備、そしてチームメンバーとの進捗確認。タカシは一日中走り回り、時間が経つのも忘れるほど忙しかった。

数日後、タカシはやっとの思いで父の病院を訪れた。病室で見た父の姿に心が痛んだ。母は疲れ切った様子で、タカシがいない間に一人で看病していた。「ごめんね、母さん。仕事が忙しくて…」タカシは申し訳なさそうに言った。母は優しく微笑んで、「あなたも頑張ってるんだから、気にしないで」と励ました。

その夜、タカシは自分の部屋で静かに考えた。仕事も大事だが、家族のことをもっと大切にしなければならないと思った。彼は「東奔西走」という言葉を思い出した。東へ西へと走り回り、忙しい毎日を送ることは確かに大変だが、本当に大切なものを見失ってはいけない。

翌日、タカシは会社でチームに相談し、少しの間プロジェクトから離れることを伝えた。彼の誠実な姿勢にチームメンバーも協力を約束し、プロジェクトは順調に進められることになった。

タカシは再び病院に向かい、父の看病を手伝いながら母を支えた。家族との時間を大切にする中で、彼は心の中に新たな力を感じた。忙しい日々の中でも、家族の温かさが彼を支えてくれていることを実感した。

数週間後、父の容態は安定し、タカシは再び会社に戻った。プロジェクトは順調に進んでおり、チームの努力が実を結んでいた。タカシは自分がいない間も、皆が一丸となって頑張ってくれたことに感謝した。

プロジェクトは大成功を収め、クライアントからも高く評価された。タカシはチームメンバーと共に喜びを分かち合い、自分が東奔西走しながらも大切なものを見失わなかったことに安堵した。

タカシの経験は、忙しい日々の中でも、本当に大切なものを見失わないようにすることの大切さを教えてくれた。そして、彼はこれからも仕事と家族、両方を大切にしながら、東奔西走する日々を送り続けることを心に誓ったのだった。

ことわざから小説を執筆 #田記正規 #読み方

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?