問うに落ちず語るに落つ

春の陽射しが柔らかく街を包む頃、地方の小さな町で事件が起きた。町の中心にある宝石店が深夜に何者かによって荒らされ、貴重な宝石が盗まれたのだ。町の住人たちは動揺し、警察署には連日多くの通報が寄せられた。

新人刑事のユウスケは、上司のタカハシ刑事と共に捜査に当たっていた。容疑者として浮上したのは、町に住む青年タカシだった。彼は以前にも軽犯罪で逮捕された経験があり、その経歴から疑いの目が向けられていた。

「タカシ君、君がやったんじゃないか?」タカハシ刑事は直球で問いかけた。

「違いますよ!俺じゃない!」タカシは強く否定した。

ユウスケはタカシの言葉に耳を傾けながらも、彼の態度や表情を観察した。タカシは確かに怪しいが、その反応にはどこか真実味があった。

「タカシ君、あの夜はどこにいたんだ?」タカハシ刑事はさらに問い詰めた。

「友達と一緒に飲んでたんだ。証明できる人もいる。」タカシは冷静に答えた。

取り調べは続いたが、タカシは一貫して無実を主張し、具体的な証拠も見つからなかった。ユウスケは別の角度からアプローチする必要があると感じた。

ある日、ユウスケはタカシを再度呼び出し、雑談をするふりをして彼の生活や最近の出来事について話をさせた。タカシは最初は警戒していたが、次第にリラックスし、自分の日常について語り始めた。

「最近どう?仕事とかプライベートで何か変わったことはない?」ユウスケは自然な口調で尋ねた。

「特にないけど、最近ちょっと嫌なことがあってさ。」タカシは苦笑いを浮かべた。

「どんなこと?」ユウスケは興味を示しながら聞いた。

「いや、友達のショウが妙に俺のことを気にしてて、俺が何かやったんじゃないかって疑ってるんだよ。」タカシはため息をついた。

「ショウ君ね…。君たち、昔から仲良かったんだよね?」ユウスケは質問を続けた。

「うん、そうだよ。でも最近、なんか変なんだ。あいつ、やたらと俺の行動を気にしてるみたいでさ。」タカシの表情には疑問の色が浮かんでいた。

ユウスケはその話を聞きながら、「問うに落ちず語るに落つ」ということわざを思い出した。直接の質問ではなく、自然な会話の中でこそ真実が浮かび上がることがある。

数日後、ユウスケはショウを呼び出し、彼の行動について詳しく尋ねた。ショウは最初はタカシを庇うような態度を取っていたが、ユウスケの冷静な質問に次第に追い詰められ、ついに自分が犯人であることを自白した。

「俺がやったんだ。タカシには何も関係ない。全部俺のせいだ。」ショウは涙を流しながら告白した。

ユウスケはその告白を聞き、心の中で「問うに落ちず語るに落つ」ということわざの真実を再確認した。直接問い詰めるだけでは得られなかった真実が、自然な会話の中で明らかになったのだ。

タカシは無実を証明され、ショウは法の裁きを受けることとなった。ユウスケは事件解決に安堵しながらも、これからも人々の心に寄り添い、真実を見つけるために努力し続けることを誓った。

ことわざから小説を執筆 #田記正規 #読み方

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