天は二物を与えず(てんはにぶつをあたえず)

地方の小さな村に、リュウという青年が住んでいた。リュウは村一番の美男子であり、その端整な顔立ちと高い背丈から、多くの村娘たちの憧れの的だった。しかし、リュウには一つの大きな悩みがあった。彼は生まれつき音楽の才能がなく、楽器を演奏することも、歌うことも、まったくできなかったのだ。

村では年に一度、大きな収穫祭が開かれる。その祭りの目玉は、村の若者たちによる音楽コンテストであり、優勝者には村の名誉と豪華な賞品が与えられる。リュウもこのコンテストに参加したいとずっと願っていたが、自分の音楽の才能のなさを知っていたため、一度も挑戦したことがなかった。

ある日、リュウは幼馴染のサクラと話していた。サクラは村一番の美しい声を持つ歌手であり、毎年のコンテストでも優勝していた。

「リュウ、今年もコンテストに出ないの?あなたの姿を舞台で見たいのに。」サクラは優しく微笑んだ。

「サクラ、僕は音楽の才能がないんだ。君みたいに歌うこともできないし、楽器も弾けない。」リュウは肩を落とした。

「でも、リュウには素晴らしい容姿と心があるわ。それに、才能がないことを理由に諦めるのはもったいないわよ。」サクラはリュウの手を握り締めた。

リュウはその言葉に勇気づけられ、今年こそはコンテストに挑戦することを決意した。彼は毎日練習に励み、サクラの指導を受けながら少しずつ上達していった。しかし、どうしても他の参加者たちのような美しい音楽を奏でることはできなかった。

コンテスト当日、リュウは緊張しながら舞台に立った。彼の演奏はぎこちなく、観客からも微妙な反応が返ってきた。それでもリュウは最後まで諦めずに演奏を続けた。

結果発表の時が来た。やはり優勝はサクラが手にし、リュウは特別な賞を受け取ることはできなかった。しかし、リュウは舞台を降りた後、観客たちから温かい拍手と励ましの言葉を受けた。

「リュウ、君の頑張りには感動したよ!」、「音楽の才能はなくても、君の努力と勇気は素晴らしい!」といった声が飛び交った。

サクラもリュウのもとに駆け寄り、彼を抱きしめた。「リュウ、あなたは本当に素敵だったわ。音楽の才能がなくても、あなたの心が伝わったのよ。」

リュウはその言葉に涙を浮かべながら微笑んだ。「ありがとう、サクラ。僕は『天は二物を与えず』ということわざを実感したよ。でも、僕には君がいるし、これからも努力を続けていくよ。」

その後、リュウは音楽以外の分野で自分の才能を見つけ、村の人々に喜びをもたらした。彼は彫刻の才能に目覚め、美しい彫刻を作ることで村を彩った。そして、サクラとの絆も深まり、二人は互いに支え合いながら幸せな日々を送った。

ことわざから小説を執筆 #田記正規 #読み方

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