椽大の筆(てんだいのふで)

ある美しい山間の村に、カズヒコという若い画家が住んでいた。彼は幼い頃から絵を描くのが好きで、その才能は村の中でも一目置かれていた。しかし、カズヒコは自分の技術に満足することなく、いつか世に認められる画家になることを夢見ていた。

カズヒコの家には古い絵筆が一本あった。それは彼の祖父が遺してくれたものであり、祖父もまた優れた画家だった。カズヒコはその筆を大切にし、自分の腕を磨くために日々努力していた。

ある日、村に有名な画家であるタケダ先生が訪れた。彼はその技術と独創性で全国的に知られた人物であり、カズヒコも彼の作品に憧れていた。村の人々はタケダ先生を歓迎し、彼の作品展が開かれた。

カズヒコはタケダ先生の作品展を訪れ、その精巧で力強い絵に圧倒された。彼は勇気を出してタケダ先生に話しかけ、自分の作品を見てもらうことにした。

「タケダ先生、私はカズヒコと言います。絵を描くことが好きで、いつか先生のような画家になりたいと思っています。もしよろしければ、私の作品を見ていただけないでしょうか。」

タケダ先生は温かく微笑み、「もちろんだよ、カズヒコ君。見せてごらん。」と答えた。

カズヒコは緊張しながらも、自分の絵をタケダ先生に見せた。タケダ先生はしばらく黙って絵を見つめ、やがて口を開いた。

「カズヒコ君、君の絵には確かに才能が感じられる。しかし、君はまだその才能を十分に引き出せていないようだ。」

カズヒコは驚きと同時に失望を感じた。「先生、それはどういう意味ですか?」

タケダ先生は深く頷き、「君の技術は素晴らしいが、絵に魂が感じられない。もっと大胆に、もっと自分の感情を筆に乗せるんだ。技術だけでなく、心の中にあるものを表現することが大切だ。」とアドバイスした。

カズヒコはその言葉にハッとし、自分の絵が技術に頼り過ぎていることに気付いた。彼は再び祖父の遺した古い筆を手に取り、もっと自由に、もっと大胆に絵を描くことを決意した。

数日後、カズヒコは再びタケダ先生の前に立ち、新しい作品を見せた。今度の絵は、彼の心の中にある情熱や感情が溢れ出しているように見えた。タケダ先生はその絵を見て、満足そうに頷いた。

「カズヒコ君、これが本当の『椽大の筆』だ。技術だけではなく、君の心を絵に込めることができたね。」

カズヒコは感謝の気持ちでいっぱいだった。「先生、ありがとうございます。これからももっと努力して、自分の絵を進化させていきます。」

その後、カズヒコは村の中だけでなく、遠くの町でもその才能を認められ、多くの人々に愛される画家となった。彼の絵は技術だけでなく、心の中にある真実を描くことで、多くの人々の心に響いたのだった。

ことわざから小説を執筆 #田記正規 #読み方

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?