聾の早耳

小さな町に住むカナコは、生まれつき耳が聞こえない。しかし、彼女はその障害を持ちながらも誰よりも情報通だった。町の人々は彼女のことを「聾の早耳」と呼び、その情報収集能力に驚嘆していた。

ある日、町に新しいカフェがオープンするという噂が広まった。カナコの親友であるミキは、そのカフェに興味津々だった。「カナコ、カフェのこと知ってる？どんなメニューがあるのかな？」

カナコは手話で微笑みながら答えた。「うん、知ってるよ。オーナーはイタリアから来たシェフで、パスタやピザが自慢みたい。デザートも美味しいらしいよ。」

ミキは驚いて、「え、そんなことまで知ってるの？いつも情報が早いよね。」と言った。

カナコは笑顔で頷き、「町の人たちが話しているのを見ていると、色々なことが分かるんだ。表情や仕草、口の動きからも情報を得ることができるからね。」と手話で答えた。

カフェのオープン当日、カナコとミキは早速訪れた。店内はおしゃれで、たくさんの人々が集まっていた。オーナーのシェフ、ロベルトが出迎え、「ようこそ！お待ちしてました。今日は特別なメニューも用意していますよ。」と笑顔で言った。

カナコはロベルトに向かって手話で「こんにちは、カフェのオープンおめでとうございます」と伝えた。ロベルトは少し驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔で返した。「ありがとう。手話ができるんですね。」

カナコは頷き、「はい、耳が聞こえないけど、手話でコミュニケーションしています。町のみんなが話していることを見ていると、たくさんの情報が入ってくるんです。」と伝えた。

その後、カナコとミキは美味しいパスタとデザートを楽しんだ。カナコはその場にいる人々の様子を観察し、楽しそうな雰囲気に満ちていることを感じ取った。

数日後、町で大きなイベントがあるという噂が広まった。カナコはその情報をいち早くキャッチし、ミキに伝えた。「今度の週末、町の広場で音楽フェスティバルがあるみたいよ。たくさんのバンドが出演するって。」

ミキは喜び、「それは楽しみだね！カナコのおかげで、いつも最新の情報を知ることができるよ。」と言った。

フェスティバル当日、町の広場はたくさんの人々で賑わっていた。カナコとミキもその場にいて、音楽と共に楽しんでいた。カナコは耳が聞こえないけれど、バンドの演奏や人々の笑顔を見て、その場の雰囲気を十分に楽しんでいた。

その日、カナコは心から感じた。「聾の早耳」と呼ばれることに誇りを持ち、これからも自分の特別な能力を活かして、町の人々と繋がっていきたいと。

カナコの存在は、町の人々にとってかけがえのないものとなり、彼女の情報通の力はみんなの生活を豊かにしていった。

ことわざから小説を執筆 #田記正規 #読み方