竹屋の火事(たけやのかじ)

古い街の一角に、竹細工を営む竹屋があった。店主の竹村義男は、何十年もこの店を守り続けてきた。竹村の竹細工は、精緻な手仕事と美しいデザインで知られており、遠方からも多くの客が訪れた。

ある日、竹村は店の奥で大きな仕事に取り掛かっていた。大きな祭りが近づいており、祭りで使われる巨大な竹製の山車(だし)を作る依頼を受けていたのだ。竹村は心を込めて作業を進め、完成を楽しみにしていた。

その夜、突然の火事が起こった。近くの家から火が出て、風に煽られて竹屋へと広がった。竹製の材料はすぐに燃え広がり、店全体が火に包まれてしまった。竹村はすぐに消防に連絡したが、火の勢いは強く、消し止めることは難しかった。

竹村は呆然としながら、炎が竹屋を飲み込む様子を見つめていた。彼の頭には「竹屋の火事」という言葉が浮かんだ。このことわざは、容易に広がり、収拾がつかなくなる事態を指す。まさに今、彼が直面している状況だった。

竹村は目の前で燃え落ちる店を見て、何もできない自分に無力感を覚えた。しかし、その時、近所の人々が駆けつけてきて、一緒に消火活動を始めてくれた。皆が協力してバケツリレーをし、懸命に火を消そうとした。

火事が鎮火した頃には、店の大部分が焼け落ちてしまった。竹村は肩を落とし、ただ立ち尽くすしかなかった。彼が一生懸命作っていた山車も、灰となってしまった。

だが、近所の人々は竹村を励まし、再建を手伝うと申し出た。「義男さん、あんたの竹細工がないと、この街は寂しくなる。だから、俺たちも力を貸すよ」と、誰かが声をかけた。

竹村は涙をこらえながら、深く感謝の意を表した。「ありがとうございます。みんなのおかげで、またやり直せる気がします。」

日が経つにつれて、街の人々は竹村のために働き、店の再建を進めた。材料も集まり、新しい竹細工の道具も揃った。竹村も気を取り直し、再び竹細工に取り組むことができた。

火事から数ヶ月後、竹村の新しい竹屋が再び開店した。店には多くの客が訪れ、竹村の作品を手に取ってはその美しさに感嘆の声を上げた。竹村は「竹屋の火事」という辛い経験を乗り越え、新たな一歩を踏み出したのだった。

竹村はこの経験を通じて、困難に直面しても仲間の助けと自身の努力で乗り越えることができると学んだ。そして、どんなに大変な状況でも、人との繋がりが自分を支えてくれるということを、決して忘れなかった。

ことわざから小説を執筆 #田記正規 #読み方

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