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イチローの思い出

2019年の春、東京ドームであった試合の後、イチローが現役を引退した。

私はイチローが大好きで、その凱旋試合を観に行っている。私を含めた誰も気が付いていた。ピークを過ぎたイチローはこれで引退だと。だからこそ応援にも熱が入った。

試合は日本での開催だがメジャーリーグ公式戦の位置付けで、アナウンスも英語で行われた。幸いにも親切なメジャーリーグは日本語のアナウンスも付けてくれたので、英語が苦手な私でも試合を十二分に楽しめた。だいたい英語は難しい。waterがワーラーになるのだから。

会場は東京ドームとはいえ、どことなくアメリカの雰囲気を感じる。イチローが打席に入ると、メジャーリーグよろしくイチローコールも自然発生した。

そのコールもまたアメリカ式で、「イッチッロ、イッチッロ」とイチローの名の音を短くきって発音するものだった。しばらくすると面白いことが起こった。コールが何故か「ウィッチッロ、ウィッチッロ」と変化していったのだった。英語で書くならWichiroである。

恐らく英語が苦手な人が、どうにか英語に発音を寄せようと考えた結果、Wの音をつけたのだと思う。そしてその人の周りの人たちは、それがカッコいいと思ったのだろう。どう考えてもイチローは日本語なのに。

次第に「ウィッチッロ」の波は広まり、ついに「イッチッロ」の声を上回ったのだった。気が付いたら私もウィッチッロとコールしていた。

この試合、残念ながらウィッチッロにヒットは出なかった。そして直後、彼は現役引退を表明した。

私は神戸時代以来の彼のファンで、オリックスファンだ。だがそれまで生で彼のプレーを観る機会はなかった。最後の最後にライトスタンドで彼の勇姿を観ることができて本当に幸せだった。

試合後、ガラガラになったライトスタンドで彼の名前を大声で叫んだ。「ありがとうイチロー」と。

だがコールに慣れすぎた私の口から出てきたのは、「ありがとうウィチロー」という間抜けな言葉だった。近くにいた51番のユニフォーム姿のファンが、私の声でずっこけた気がした。


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