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『軽く狂った感じのショートホラー本が頭に当たった!』第1話 ~昔の人たち博物館~

『第1話 昔の人たち博物館』

 
 小学1年生の桃彦(ももひこ)は、お父さんと2人暮らしをしていました。
 自分のお母さんの顔は、見たことがありません。
 お父さんからは、「お母さんは、お星様になったんだよ」と聞いていましたが、それはお父さんの嘘であると桃彦は思っていました。
 お母さんはお父さんから『逃げた』ということを、前にお父さんがいないとき、お婆ちゃんと親戚の叔母さんが話しているのを聞いたことがあったからです。
 桃彦には、大人の話はよく分かりませんが、お母さんはお父さんを好きで結婚した筈なのに、どうしてお父さんから『逃げる』必要があったのかと不思議に思うことはありました。
 桃彦もたまにお友達と鬼ごっこをして、鬼となった友達から『逃げる』ことがありましたが、鬼ごっこが終われば、お友達との仲は元通りです。 
 お母さんも早く『逃げる』のをやめて、戻ってくればいいのにと思っていました。
 それとも、お母さんは、お父さんがまだ『鬼』だと思っているのかなぁと感じることもありました。
 そうでなければ、お母さんがお父さんから『逃げる』理由なんて、無い筈なのに。
 桃彦は、大人の考えることは、たまに難しくて、よく分からないので、自分も早く大人になりたいと思っていました。
 でも、お父さんは優しくて、日曜日になると必ず遊びに連れて行ってくれるので、桃彦はお父さんとの今の生活にも満足していました。

 今日は待ちに待った日曜日。
 お父さんは、桃彦を前から約束していた『昔の人たち博物館』に連れて行ってくれるみたいです。
 そこは何だかちょっと怖いところのようです。
 ただ、『お化け屋敷』が好きな桃彦のため、お父さんが選んでくれた場所のようですから、桃彦は何日も前から今日を楽しみにしていたのです。

※※※※※

「モモ! この博物館はね。これまでの『お化け屋敷』とは、ちょっと違うんだ。まず『お化け』が出て来ない。出て来るのは、みんな『昔の人間たち』なんだ」
 お父さんは、博物館の入口で桃彦に説明をしています。
桃彦はキョトンとした顔で「え? お父さん、お化けがいないの? 人間しかいないの? でも、お父さんもボクも人間でしょ? 人間がどうして怖いのさ?」と尋ねました。
「そう。今日の博物館で聞くお話はね、昔、本当にあったことであって、本当にいた人間たちのことなんだ。この博物館は、つくり話ではなくて、本当にあったことを教えてくれる。そしてお化けなんかより、実は人間の方が怖いのかもしれない、そんなことを教えてくれる場所なんだ」
「お化けよりも人間が怖いの? ふ~ん。じゃあ、この博物館を出た後は、ボク……お父さんとか、お婆ちゃんとか、周りの人間たちのことが怖くなっちゃうってこと?」
「ううん、モモ。それは心配しなくていいよ。時代は大きく変わったんだ。今日、この博物館で見ることは、『昔の人』の話。今は、もうそんな人たちはいないよ。今のモモくらいの子供からすると、信じられないようなことばかりかもしれないけど、だからこそ、大切な昔の思い出として、こうやって博物館に取っておいてあるんだ」
「お父さん、何だかそれって、凄く面白そうだね!」
 桃彦は大好きなお父さんの説明に大いに興味を持ったようであり、お父さんと一緒に博物館の中に入って行きました。

※※※※※

1.『100キロのタライによって、地中に深くめり込んだ男のミイラ』

「さあ、ここが『SNSの部屋』だよ!」
 既に博物館のいくつかの部屋を回り、すっかり上機嫌の桃彦に対し、お父さんは次の部屋の名前を教えてあげたところです。
えすえぬえす? お父さん、それ何?」
「そう、昔の人たちはね、SNSっていうものを使って、自分の身の周りに起こったこととか、自分が感じたこと、旅行に行ったときのことなんかを自分の知らない人たちに広く伝えていたんだ」
「あっ、お父さん、それ学校の先生から聞いたことがあるよ! 今のボクたちの時代とは、考えていることが少し違ったんだね!」
「そうなんだ。それでね、これが『100キロのタライによって、地中に深くめり込んだ男のミイラ』だよ」
「うわ! お父さん、それ……気持ち悪いね! でも……何か怖くて、面白そう!」
「このミイラの横に説明文が書いてるんだけど、桃彦には難しいと思うから、お父さんが口で説明してあげるね!」
「うん、お父さん、お願いお願い!」
「昔、SNSで自分の発見を投稿、、、あっ、『投稿』っていうのは、自分の知らない人たちに広く教えてあげるって意味だけど、投稿をした人がいたんだ。ただ、それに対して、1人の男の人が『それの何が問題なんですか? それの何が面白いんですか?』っていう冷たいコメントをしたんだ」
「お父さん、こめんとって何?」
「ああ、ごめんごめん。コメントっていうのは、それを『読んだ人』が、『書いた人』に対して、自分の考えを教えてあげるっていうことだよ」
「ふ~ん、昔の人たちは、何だって、そんなことしてたんだろうね?……でも…… お父さん、その『何が問題なんですか?』っていうのは……それって、そのトーコー?の中に書いていなかったの?」
「いやいや、それはね、『書いた人』は、ちゃんと書いていたんだ」
「じゃあ、何だって、『何が問題なんですか?』なんて聞くのさ? そんなの、書いてあることをちゃんと読めば分かるじゃない?」
「そうなんだよね。そこは、お父さんもよく分からないんだけど、昔の人たちは不思議だよね」
「ふ~ん、不思議な人たちだったんだね。それでさ、それでさ、何だって『何が面白いんですか?』なんて書く必要があるのさ? そんなこと書かれたら、『書いた人』は、きっと悲しい気持ちになるんじゃないかな? そんなヘンな人の話なんて、ボク、これまで聞いたこともないや」
「そう。お父さんもよく分からないんだけど、たぶん昔の人たちも、そんなこと書かれたら、たぶん悲しかったんじゃないかぁと思うよ」
「ふ~ん。ヘンなの」
「そう、ヘンなんだよ。それでね、それからとっても怖いことが起こったんだ! 人を悲しませるようなことを書いたその男の人がね、その後で嬉しそうに笑いながら、自分の家を出たんだ。そしたら、ちょうどその男の人の真上に飛んでいた『タライ運搬専門ヘリコプター』というのが風に煽られて、運んでいた100キロのタライがヘリコプターのガラス窓を突き破って、その男の人の頭の上に落ちちゃったんだよ。その男の人は、100キロのタライの重さが急に頭にのしかかってきた衝撃によって、まるで巨大なハンマーで地面に打ち突けられる1本の釘のように、柔らかい地面の中にめり込んで死んじゃったんだ! このミイラは、後からその男の人の死体を地面の中から引き摺り出して作ったものなんだよ」
「うわ~、お父さん! そんな珍しい話があるんだね! 何か、凄く怖くて面白いね!」

※※※※※

2.『巨大忍者ロボットの巨大手裏剣によって、腰の上あたりから真っ二つにされた女のミイラ』

「さあモモ、次は女の人のミイラだよ」
桃彦は、お父さんに手を引かれ、SNSの部屋を回っている。
「うんうん、次のこの女の人は、いったい何をしたのさ?」
桃彦は期待に輝く目で、お父さんを見上げている。
「そう、この女の人なんだけどね。ある人が、自分の『つくり話』をみんなに見せてあげてたんだ」
「うん、もう分かるよ、お父さん、トーコーでしょ?」
「おっ、モモはやっぱりお母さんに似て、頭がいいなあ。そう、投稿したんだ」
「うん、それでそれで?」
「ただね。この女の人は、その人の作り話に対して、『始めが良くない。真ん中が良くない。終わりが良くない。自分だったら、こう書きます! こう書いた方が面白いです!』なんてことを書いたんだ」
「え? ウソでしょ? こめんとって、そんなこと書くの? そんな人がいたなんて、ボク信じられないや! だって、それって『書いた人』の作り話でしょ? 『読んだ人』の作り話じゃないんでしょ? ……あっ、分かった! きっと、その『書いた人』は、その『読んだ人』のことが大好きだったんだよ! だから、自分の『作り話』なんだけど、その『読んだ人』だったらどんな話を作るかっていうのが知りたかったんだよね?」
「いや、モモ、どうやらそうじゃないらしいんだよ。その『書いた人』は、別にその『読んだ人』を好きでもなんでもなかったんだ」
「え? ボク、いよいよ分からないよ! 何だって、好きでもないただの『読んだ人』から『あなたの作り話は、ここが良くない、ここも良くない』なんて言われなくちゃいけないのさ? そんなヘンテコな話、それこそ『作り話』じゃないの?」
「それが本当にあったっていうのが、この昔の人たちの怖いところなんだよ、モモ。それでね、この女の人にも恐ろしいことが起こったんだ」
「うん、なになに? そのヘンな人に何が起こったのさ?」
「この女の人がね、『書いた人』の作り話の悪口を散々書いた後に、ニヤニヤしながら買い物に出掛けたんだ。そしたらね、ちょうど、その女の人の家の近くの公園で『この生き辛い世の中、もはや他人は信じられない。俗世間を離れ、みんなで孤独な忍者になろう祭り』という夏休みの子供向けイベントの準備中だったんだ」
「ふ~ん、お父さん、難しくてよく分かんないけど、その『ニンジャ』っていうのは、学校の先生から聞いたことがあるよ。飛んだり、隠れたりする人たちだったんだよね? それでそれで? それから、女の人どうなったのさ?」
「そう、そのお祭りのためにね。町のおじさんやおばさんたちが、たくさんのお金を使って、モモの家くらいもある『巨大忍者ロボット』っていうのを作って、運んでいたんだ。だけどね、その女の人が買い物を終えてスーパーから出たところ、その巨大忍者ロボットが誤作動……あっ、ゴサドウっていうのは、間違ってヘンな動きをしてしまうということだけど、間違って手にしていた巨大手裏剣、、、あっ、シュリケンっていうのは、お星さまみたいなかたちをした忍者の武器だけど、その大きなシュリケンをもの凄い速さでスーパーの方に投げてしまって、スーパーから出て来たその女の人を胴体からスパーン!と真っ二つに切断しちゃったんだ!」
「わぁ~、怖いね、お父さん! あっ! だから、この女の人のミイラは2つに分かれているんだね!」
「よく、そこに気付いたね! 偉いぞ、モモ! モモはやっぱり、お母さん似だな!」
「今度、お母さんもこの博物館に一緒に誘ったらどう?」
「だから、モモ……それはできないんだ……。お母さんは、お星さまになっちゃったんだよ……」
「あっ、ごめん……そうだったね、お父さん。……ねぇ? ボク、お父さんにも似てるところあるんじゃないかなぁ……。どんなとこだろうね?」
「そうだな。素直で好奇心があるところは、お父さんっぽいかな? じゃあ、SNSの部屋の最後のミイラを見に行こうか。このミイラになった男の人は、たまたま動物園内に間違って暴走してきたショベルカーに掬い上げられて、ツキノワグマの展示場に落とされた後、熊たちに囲まれてショック死しちゃったんだ」
「うん! そのミイラも見たい見たい! でも、お父さん、そのえすえぬえすっていうので、昔の人を悲しい気持ちにさせた昔の人たちって、結構怖い死に方してるんだね? その最後の『昔の人』は何をしたのさ?」
「そうなんだよ。なぜだか分からないんだけど、みんな恐ろしい目に合ってるんだよねぇ。……さて、最後の『昔の人』はね。『書いた人』が一生懸命に自分の話を書いているのに、『私の話を読んでくれてありがとうございました。スキありがとうございました。フォロバもありがとうございました。私が書いた○○の話も読んでください。私が書いた△△という話も読んでください』って、自分の話ばっかりしていた人で……」
「もう、お父さん、それはウソでしょ? ボク、もう小学生だよ。もう騙されないからね。そんな人がいる訳ないじゃない」
「いやいや、昔はいたんだよ、そんな人たちが。その人たちはね……」

(第1話 完)

※※※※※

 第1話はそこで終わった。
 立希(たつき)は呆気に取られた。
 何だ、この話は?!
 何て表現していいのか分からないけど、軽く……。
 立希は混乱した頭でページをめくると、左のページには、またもや『アヒル口の麗子』のイラストが描かれ、その目は真っ直ぐに立希を見つめていた。
 右のページには、『アヒル口の麗子』の短いナレーションが、数行だけ書かれていた。
 「アラ? あなた、まだ居たの? 本を捨てなかったのね? その公園……たまに出るらしいわよ。本を捨てるなら、今の内よ。せいぜい気を付けてね。フフフフフ」
 立希は、またもやぞっとした。
 『その公園』って……まるで自分の行動をすべてどこかで監視されているみたいじゃないか?!
 いや……ただの偶然だろうけどさ……。
 立希は、ソワソワした気持ちになったが、なぜかページをめくる自分の指を止めることができなかった。
 次のページには、第2話のタイトルが書かれていた。

『第2話 膝を失ったおっさんたち』

(つづく)


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