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坪内美子という女優/小津安二郎「一人息子」

映画「一人息子」。
坪内美子さんが最初に登場するのは、襖の奥からひょこっと顔を出す場面だ。まず持ってこの登場のしかたが印象的だ。
なんだかふわ〜っとしてるけど、芯が通って気が強そう。そんな第一印象。
これまでも小津作品を観ることで、「えぇー、こんなにキレイだったんだ」と目が覚めた女優さんたちはたくさんいたが、
この女優さんもまた他にない個性的な魅力を放つ人だと思えた。
そのしるしに、この人の事を何か書いておきたくなった。

映画には関係ないことですが、
私には102歳で亡くなった祖母がいた。
(亡くなったのは3年ほど前かな)
もちろんこのような美人ではなく凡人です。
ただ、年齢的にこの人と同じ時代を生きたことは間違いない。
そうなると、祖母の若いころの生き方を、無理やりシンクロさせて観てしまうんです。
そんな事もあって、この女優さんが心にとまったのだろうと思います。

さて、この映画の中での坪内さん。
喋りはそんなに多くはないのですが、語り口と声が特徴的に感じます。
うまく表現できないけれど、独特の品格があり観ていてとても心地よいのです。
原節子さん同様、この人もすべでの所作が美しい。
例えば、赤ちゃんを抱きあげる所作や、ラーメンをすする姿など、いちいち画になってて台詞なんかいらない感じです。
それと「笑顔」と「憂い顔」の二面性を表現するのがとても上手な女優さんだと思いました。
言葉少なでも、仕草や表情で演じ切れる凄みというか、なんというか。
この「一人息子」が小津監督として初のトーキー映画だと知って思ったのですが、
この人はきっと、サイレントのスキルとトーキーの良さをかけ合わせることができる、希少な役者さんなんじゃないかと思います。

坪内美子
良助(日守新一)の妻杉子(坪内美子)の登場。襖の奥からひょっこり。
<「一人息子」1936から>


坪内美子 一人息子
このふわ~っとした感じ。サイレント映画を観ているようだ。"見たことない新しい美しさ"だと思った。
<「一人息子」1936から>


日守新一
日守新一さんの笑顔もめちゃくちゃいい。素敵ですね。
<「一人息子」1936から>

日守さんへについてはこちらに。


映画一人息子 飯田蝶子
母親役の飯田蝶子さんと。なんだろうこの温かみは。
<「一人息子」1936から>


日守新一
小津作品では欠かせない食事の場面。劣化しかかった荒れた映像にも左右されない完成度の高さ。
<「一人息子」1936から>


坪内美子
夜鳴きラーメンをすする。すべての所作が美しい。
<「一人息子」1936から>


映画一人息子
小津アングルはこの時代からブレていない。心がおち着くね。
<「一人息子」1936から>


吉川満子
どんな役でも粋にこなす吉川満子さん。素敵です。
<「一人息子」1936から>


笠智衆
笠智衆さんのイケメンぶり。この頃32歳。
<「一人息子」1936から>


小津安二郎一人息子
映画を観て、女性たちの和服の着こなし方に注目したのは初めて。いいなぁ。
<「一人息子」1936から>


小津安二郎一人息子
良助の恩師(笠智衆)が営むとんかつ屋さん。今でいうノボリか。
<「一人息子」1936から>


小津アングル
メイン人物の顔を見せないで、対面の人物の表情を映す。小津監督のこのやり方が好きなんです。
<「一人息子」1936から>


坪内美子
この憂い顔、カラー化して見たくなります。
<「一人息子」1936から>

昭和の40年代に生まれてきた私は、
大正時代から戦前戦後の頃の文化や作法を知らない世代に属すると思います。
でもまったく解らない訳ではない。観れば「そうだったよね」と思えて、新しいものを見つけた様な感覚が得られて楽しい。
この「一人息子」にもそんな楽しさがいっぱい散りばめられていた。
そういう感覚も、小津映画が観たくなる理由の一つなのだと思います。


小津安二郎一人息子

最後に、
映画「一人息子」は1936年の作品。
映像も音声も決して良いとは言えない状態ですが、
それでもとても良い映画だと思いました。
これからも何度も観たいです。
筋書きはどちらかというと、辛く悲しい現実を描いたもの。
それなのに一貫して笑顔が際立っています。
人は、どんな時でも笑顔でいなくちゃいけないんだな。
そんな風に思えて、とても優しい気持ちになれる映画でした。

坪内美子出演作品。今度は小津映画以外のものを探してみようかな。


坪内美子カラー化
カラー化。やっぱりといった感じの綺麗さでした。




最後まで見てくださりありがとうございました。





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