ケッショウー"私"の逃亡生活(笑)ー#6

クデラ「はあ……どうしよう。」

橙色に染まった鉄道橋の高架下。
とうとうこの世界でも逮捕される恐れが出てきた私は、すっかり途方に暮れ、路上で座り込んでいた。

クデラ「……まあでも、我ながら私は優秀な人材だと思っているし、ツブエスも私をクビにすることは不可能だろう。つまり、ここはさておき、あっちでは訴えられずにのうのうと生活できるってわけだ……でも、"趣味"で色々やった後の後始末が、ちょっと面倒になるなー。」

この世界で物思いにふけりながら、私はぼんやりと朝日を眺める。

並行世界にも色々な種類があるが、この世界はあの"2019年の世界"に近いため、町並みや朝日も似通っているようだ。

クデラ「何か……この世界統一感全然ないよね(統一感がない社会で暮らす男の感想です)。別に駅とかビルとか世界観壊すからなくてもよくない?何なら警察もいらないと思う、うん(会社で横領をして捕まりかけた男の感想です)。」

???「見つけたぞ!!」

クデラ「ん?」

色々と失礼なことをボヤいていると、おそらくこの世界で暮らしていると思われる魔物?が現れた。
そいつは随分と高貴な衣装を着て、いかにも身分が上という感じはするが、街中をうろついているところを見るに、どうやら前線に出るタイプのようだ。

クデラ「ん?君、誰だい?」

私が問いかけると、その魔物は私にこう言う。

二世「俺の名は ホシン・ルバヴェンジ!人呼んで『魔王二世』だ!」

クデラ「…………そういえば、ここの連中は畏怖の対象を二文字で表し、それを継ぐ者は何世をつけて表すんだっけ?ちょいと検索した時に見た気がするな〜。」

何とも安直すぎるとは思うが、どうやらそれが"彼ら"の文化らしいので、ここは尊重するとしよう。
そんなことよりも、この急に現れた名前の割に可愛げのある生物は一体何なのか。
私はひとまずこの生物の目的を聞いてみることにした。

クデラ「今、私に向かって『見つけた』と言ったかい?この見るからにただのアラサーな私に、何か用でもあるのか?」

二世「あるよ!お前、トルバに変な力持たせてるしょあくのこんげんだろ?」

クデラ「……ほう。知っているのか。この私とトルバのことを。」

何かあるな。
私は直感的にそう感じた。
さっきの"リーグス"とかいう奴が呼んだ追手か?
いや、彼らはどう考えても魔物のような生物を従えるタイプの奴らではないだろう。
ならこいつは?
こいつは一体何者なんだ?

二世「俺は見ていた!あの電車の中で、魔法で透明になってな!お前がトルバの口に何かを放り込むのをだ!
"あれ"だろ!?"あれ"がお父さんを殺せる魔法をトルバによこした何かなんだろ!?
そうじゃなきゃ、父さんを倒せるはずがない!!
お前は一体何者なんだ!?
答えろ!おい!!」

ふーむ、見ていたのか。
そしてこいつはお父さんとやらの敵討ちか何かを狙って、トルバから私まで辿り着いた。つまり、私を始末しようというわけだな。
さっきの名乗りからして、そのお父さんとはこの世界でいう『魔王』のことだろう。

…………トルバは『魔王』を倒したのか?
まあいい。

しかし、厄介な奴だ。
透明になれるとか言うし、魔王の子供だとしたら、そいつは結構強そうだぞ。
……いやでもトルバで魔王倒せるんだったら私は余裕でこいつに勝てるか。

クデラ「うーむ、なるほど。つまり君は、トルバが私の力で強くなっていることを知った。そしてお父さんの無念を晴らすためにも私を始末し、ゆくゆくは力を失ったトルバも倒したいと、そう思っているわけだね?」

二世「そ、そうだ!話が早いじゃないか!」

クデラ「……フッ、舐められたものだな。
まあいいさ。
私の趣味の一つに『私のゲームの中での戦闘』というものがあってね。今はただそれに興じてみるというのもいいかもしれない。」

二世「『ゲーム』?お前、何言ってるんだ?」

『ゲーム』という言葉が彼の脳裏に引っかかるはずもない。何故なら彼はあくまで"モブ"だからだ。

クデラ「教えてあげよう。そのゲームの名はーー


『enter the blue spring』」

二世「……はあ?」

おっとやってしまった。
『このゲーム』を作る時に予告映像を何回も"ツブエス"と撮ったせいで、体が勝手にゲームの宣伝を始めてしまった。
ま、こいつ倒すんだし、これ以上何も教えなくたっていいよね!

クデラ「さて、始めようか。」

『マスターゲットレイダー!』

クデラは謎の機械を起動し、その機械から出ている結束バンドのようなものを左腕に巻き付けた。

クデラ「最初に言っておく。
私は趣味に対しては全力で、徹底的にやる男だよ?」

二世「……いいから、やってみろよ。」

二世はクデラのただならぬ気配を感じ取り、腰を落として身構える。

クデラ「フフ、いい度胸だ。」

そう言うとクデラは2つの『何か』を取り出し、左腕の謎の機械に装着した。

『ミカエルプラグ!』

『マジョリティータートルデッキ!』

彼の機械から底抜けに明るい音声が鳴る。

二世「……何だ?あの機械は?」

クデラ「安心したまえ。知ったところで、君に勝ち目はない。」

クデラがそう言った直後、クデラの頭上に巨大な円盤のようなものが出現し、キラキラと宝石のような藍い光を放つ。
その眩い光を前に、二世は思わず顔を背ける。

二世「グ……!な、何だそいつは!」

クデラ「ああ、失敬失敬。こいつはただの"演出"さ。」

『インストール』

カチッ

クデラは謎の機械の右の側部にあるボタンを押した。

『terabyte for audience……Cdera!』

機械から神秘的な音声が流れると同時に、藍い円盤からドローンのようなものが射出され、クデラの顔に装着される。

そして藍い円盤は射出して役目を終えたのかぐんぐん小さくなっていき、最終的にはクデラの体に纏わりつくようにして消え、後にはメカメカしい、装甲のようなものを身に纏ったクデラが立っていた。

二世「な、何だそれは……!?魔法か!?」

クデラ「フフ……違うよ。
これは私の開発したバトルシステム……


"レイダー"!」


『ゲームの運営』がこの世界に君臨した。


マジョリティータートルレイダー

HP33100 耐久力512 パンチ力226t キック力246t スピード 時速206km

必殺技 ???



二世「……!……くっ!」

ガチャッ ガチャッ

全身が鋼鉄のようになっている"異形"が異様な足音を立てて迫ってくる。

クデラ「どうした?私を倒すんじゃなかったのか?」

二世「チッ!舐めるなよ!」

二世は地面に右の人差し指を突っ込み、魔力を注入した。

二世「ファント・プラント!」

ドガガガガ!

地面からいきなり大きな花が咲いた巨大な植物が姿を現した。
その花の柱頭は4つに割れ、中から牙の生えた大きな"口"が出てくる。

ファント・プラント「¿℉‼‼©}/‡⁈⁇‼‼<<--=~?№§‾⁇!!」

クデラ「は?何こいつ……キショ。」

二世「いけプラント!奴の装甲をぶち破れ!!」

ファント・プラント「〔‘~~'’~’®©®¿¿‥®·№‼µµ《【↦↦⇄∷∑∆√ς!!」

ファント・プラントは口を大きく開き、クデラの装甲を噛み砕こうとした。
しかし、

クデラ「拡張武装 キバノバイター」

ガチン!!

二世「なっ!?」

一瞬だった。
ファント・プラントの頭が、クデラの左腕が変化した謎の武器によって一撃でちぎり取られた。
その謎の武器には無数の刃と顎のようなものがついており、まるで生き物の頭部をそのまま右手にくっつけているかのようだ。

二世「ば、馬鹿な!?奴はうちの魔物の中でも、一線級の守備力なんだぞ!?それを、あんな簡単に!」

クデラ「やれやれ……世間知らずは困るよ。
今私が使った武器は、"異世界の生命体"を変化させたものだ。」

二世「……なっ!?何だと!?」

クデラの戦闘力。
その存在は今まで未知数だったが、ここに来てその恐ろしい力の一つが明かされる。

クデラ「キバノザウルス。
強大な力を持つ恐竜が絶滅せず、生き残った世界に存在した噛みつきに特化した恐竜。
その噛みつきの威力は単純計算で800t。
植物、いや、例え鋼鉄ですら噛み切られる恐れのある威力だ。
最も、君たちは"外の世界"の生物のことなんて知らないだろうがね。」

クデラはドローンによって隠された顔に笑みを浮かべつつ、機械に収められたカードデッキのカードを取り出す。

クデラ「いちいち説明しないとわからないようだから、私がこれから呼び出すモンスターを説明してやるよ。」

二世「……チッ、言ってみろ。」

二世は敵に情をかけられるのは死ぬほど嫌だが、この時ばかりは聞かないと本当に死んでしまうので、大人しく説明を聞くことにした。
『たとえどんな怪物が来ても返り討ちにしてやる』という強い意志を抱きつつ。

クデラ「殺人ドローン。
機械が生物の枠に参入した世界に存在する『生物兵器』……これは君たちにも馴染みがありそうだね。
君は魔物を"作る"ことができるようだし。」

二世「まあな。そういうタイプの奴も、作れるには作れる。」

この世界の魔物は2種類存在する。
一つは元々この世界に一定数いた『ネイティブ』と呼ばれる魔物。
もう一つは強力な力を持つ魔物によって作り出された、戦闘用の魔物である。
魔王やその他の強力な魔物が新しく魔物を作り続ける限り、人類との戦争で魔物が足りなくなることはない。

これが人類と魔物の戦争に決着がつかない一つの理由である。

クデラ「だね。ただ、この兵器は君たちが作る"魔物"とは違い、血も涙もないもんでね。現れれば目につくもの手当たり次第にビームを撃つ。最も、私は対象外だがね。"ツブエス"のモンスターを制御できる技術のおかげで。」

二世「"ツブエス"?誰だそいつは?」

クデラ「美人で頭がキレる以外はどうってことない女だ。気にしなくていい。」

クデラは食い気味に"ツブエス"の話を終わりにする。

クデラ「『召喚』」

二世「っ!呼びやがったか!」

二世は頭上を見上げ、これから飛んでくるであろうドローンを警戒した。

クデラ「かかったな……今のは"ブラフ"だ。」

二世「!?」

クデラ「君たちの世界では、"唱えて使う"というのが普通の動作になっているようだね?しかしね、私たちは"唱えずに使う"んだ。魔法と違い合理的だろう?」

クデラは『召喚』とは口にしたもののその召喚を行うことはせずに、二世に凄まじいスピードで近づいて強烈なパンチを喰らわせた。

クデラ「フンッ!」

二世「ガッ!?」

クデラ「拡張武装 キバノグローブ、それとキバノレッガー。どちらも威力1200tだ。なかなかの威力だろう?」

二世「ぐっ……!」

この世界にいるどの魔物よりも遥かに威力の高い打撃。
経験したことのない衝撃と痛みに二世は悶絶する。

クデラ「おや、何もしないのかい?じゃあ、一気に決めちゃうよ?」

ドガッ!

二世「ぐっ……!?」

クデラは拡張武装 キバノレッガーの力で二世を真上に突き上げると、そのまま流れるように次々と攻撃を加える。
まるで格闘ゲームのコンボかのようにこれでもかと二世をボコボコにして、かつ反撃は全ていなしてしまう。
この世界にいるどの生物とも異なる、正しく『別次元の強さ』だ。

クデラ「フフ、何事かと思ったが、所詮はこの程度。『レイドモンスター』の分際では、この私の『レイダー』の力には敵わない。オラァ!!」

二世「うわあああ…………!?」

二世はクデラに大きく吹き飛ばされ、側にあった建物の壁に深くめり込む。

二世「くっ……!こいつ、あの時のトルバ以上に……強い!」

クデラ「当然さ。さ、トドメと行こうか。」

クデラは左手についた返り血を拭うと、機械の上部のボタンを押した。

『必殺技!クラスタルフィニッシュ!』

二世「うっ……ぐわっ!?」

二世の体が突如ケッショウに覆われ、二世は身動きが取れなくなってしまう。

クデラ「さらばだ。どこの誰かも知らない『レイドモンスター』さんよ。」

クデラは大きく跳躍し、ケッショウに覆われて動けない二世に向かって飛び蹴りを放つ。

クデラ「レイダーーー!キッーーーク〜〜〜!なんつって。」

二世「っ!まずい!

『サイデンス』!」

チューン!

二世が立っている地面が地盤沈下を起こし、クデラの飛び蹴りがすんでのところで回避される。

ドガンッ!!!!

二世「うっ……!」

二世は思わず顔を背ける。

建物がまるで砂場の砂で作った城のようにいとも簡単に崩壊、爆発し、四方八方に瓦礫が散乱した。

『必殺技』の名に違わぬその威力に、二世は"トルバ"の時のような"絶対的強者"に対する恐怖を感じた。

クデラ「ふう……やるじゃないか。私の必殺技をかわすとは。」

二世「とう……ぜんだ!こんなところで、そう簡単に死ぬわけにはいかない……!」

クデラ「ほう、そうかいそうかい。
ところで、"後ろにいる奴"のビームを受けても、君はそんなことが言えるのか?」

二世「……!?」

ブーン……

二世の背後に、プロペラが回転しているような音を放つ"何か"が現れる。
しかしケッショウが二世を拘束しているため、そうわかっていても二世は振り向くことができない。

二世「てめえ……!『召喚』したな!さっきの奴を!」

クデラ「フフフ、言っただろう?"唱えずに使う"と。それと、私はやると言ったらやる男だよ?」

クデラは二世がケッショウを破って振り返ろうと必死に抵抗する様を見て、ニヤニヤしながらそれだけ言い放ち、自分はまるで何も関係がないかのようにその場に座り込んだ。

クデラ「おっ!新しい動画だーーー!早速見ようーと。」

クデラは装甲を纏ったまま『マスターゲットレイダー』のボタンをポチポチと押し始め、プロジェクターのように鉄道橋の柱に自身の世界の動画を映し出すと、そのまま床に寝そべって見始めた。

二世「ちっくしょー!ふざけやがって!」

二世はケッショウを凄まじい力で破ると鎌を虚空から生み出し、その鎌に魔力を込めた。

この鎌は二世が相手を仕留めるために呼び出す、本人曰く『タナトスの鎌』。その死の神を冠する名の通り、魔力を込めた最大火力はどんな敵も一撃で葬り去る程のものになる。
しかし今この瞬間は防御が間に合わない時のための鎌であり、『殺られる前に殺る』という、いわば『賭け』だ。
その『賭け』をしている時点で、二世の敗色は極めて濃厚なのだ。

二世「ふっ飛べーーー!!」

二世は落ち着きのない大振りな動作で殺人ドローンに攻撃を当てようとするが、
殺人ドローンはその攻撃全てを嘲笑うかのように避けた。

二世「チクショー!こいつ、こっちの魔物みたいに、機械のくせして意思を持ってやがる!」

クデラ「おい君、うるさいぞ。それと、そんな大振りな攻撃じゃあそいつには当たらない。時速300kmを上回る速さだぞ?」

二世「うるせえ!!今集中してんだから話しかけんな!」

クデラ「うるさいのは君の方だ!殺人ドローン!お前もふざけてないでしっかりやれ!
今見てる動画を新鮮に味わえるのは、今だけなんだぞ!?早くそいつを静かにさせろ!!」

二世「おい!人が頑張ってる時に動画見て余裕ぶっこいてんじゃねえ!!」

クデラ「うるさいって!"私のモーニングルーティン"と化した"モーニングルーティンの動画視聴"を邪魔するのか!?」

二世「ややこしいわ!?とにかく動画見んのやめろ!!対戦相手に無礼だと思わ」

ビューン!!

二世「ぬわーーー!?」

二世は殺人ドローンのビームで彼方まで飛んでいってしまった。

クデラ「全く……私の趣味の邪魔をする奴は全員消えればいいんだ。

さーて!切り替えてこう。この動画を今見ることに集中!!失われた時間は二度と戻ってこないぞークデラー!」

恐るべき!このクデラという男は、魔境と呼ぶに相応しいこの異世界で、動画視聴をする程の余裕を見せながら魔王クラスの相手を圧倒してしまう、異常な強さを持つのだ!

そして、この男のロクに説明をしなかった『enter the blue spring』というゲームは、このような恐ろしい戦闘力を持つ"レイダー"に変身する、最強のプレイヤーたちが『青春』を求めて遊ぶ混沌を極めたゲームなのである!

クデラ「あー!面白かったー!あっ、『enter the blue spring』は私が小説として出してるから、気になるなら私のチャンネルから見てみるといいよ。暇つぶしにはなると思う。
よーし!次の動画だーー!ツブエスに怒られた心の傷を、ここでしっかり癒やすぞーー!」

こうしてクデラは、ちゃっかり自身の小説を宣伝したあと、早朝から午前10時あたりまで延々とモーニングルーティンの動画を見続けた。

そしてひとしきり見終わった後に彼の会社の代表取締役、ツブエスに捕まって元の世界へと帰っていった。

ちなみに動画は全て2倍速で流れていた。つくつく矛盾ーー"パラドックス"の多い男である。



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