【ある冬の明け方の話】

 ベッドが揺れる感覚でわずかに意識が浮上した。
 薄く瞼を開くと、少しだけ白みはじめた部屋の壁と、目の前にあるごつごつとした輪郭だけが見てとれた。
 首と枕の間の隙間に腕を差し込まれる。疲れちゃうからいいよ、と押し返して腕をお返ししたいのだが声は出ない。そのうちに首元がぽかぽかとしてきて、かろうじて三分の一ほど開いていた瞼が完全にくっついてしまう。
 違うの、ほんとは起きられるの、いつもはちゃんと起きてるのひとりのときは、とよくわからない弁明を心のなかで繰り返しながらもからだは一文字も発してくれない。呼吸がまた深いものに戻っていく。
 見えもしないし声も聞こえないが、額のやや斜め上あたりで、かすかに笑う気配がした。
 仕方ないでしょ。寒いのが悪いし、あったかいのも悪い。
 開き直ったわたしは暖かく脈打つような右腕を、夜が明けきるまで今しばらく借りておくことにした。

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