【中村先生の部屋に観葉植物が増えていく小話】

※二次創作
※中村先生夢
※名前変換機能がないため夢主の名前は「ゴマミソ」さん固定


 インターホンが鳴って玄関ドアを開けると、両手で大きな鉢植えを抱えた恋人が、「連れてきちゃった」と少しばつ悪そうに笑っていた。


 彼女はよく、しなびた観葉植物を買う。それはスーパーの隅の花屋で、駅ビルの雑貨店で、野外イベントの露店で、はやっていない植物園の物販コーナーで。様々な場所で枯れかけて投げ売りされている鉢植えを見ると買って持ちかえる。彼女曰く、「つい放っておけなくて……」らしい。
 彼女の不思議な手は、潰えかけていた植物の生命力を引き出し、見事に活き活きとしたグリーンに蘇らせる。中にはどうしてもリカバリーしきれずそのまま枯らしてしまう鉢もあるようだが、その手腕はもはや一種の才能だと俺は思っている。それを彼女に伝えると、「特別なことは何もしてないよ。よく観察して、必要そうなことをやってるだけ」と言う。葉っぱをじっと眺めたとて何もわからない俺は、それがわかるのが才能なのだと返した。
 そうして少しずつ集まった鉢植えたちは、彼女の部屋の一角を占領し、小さな植物園の様相を呈している。しかし、彼女の部屋のキャパシティにも限界がある。
「大きい鉢はもう置ききれないし、ほら、中村さんちのベランダ広いし、私の家より断然日当たりいいし!」
と早口で言い訳を並べながら、水やりのタイミングなどを書いたメモと一緒にそこそこ大きな木の鉢を置いていったのが最初。それ以来、ちょこちょこと俺の部屋にもグリーンが増えはじめ、今のところ増える一方だ。


「また買ってきたのか」
 小さな体躯で大きな鉢を抱える彼女からそれを受け取りながら、思わず苦笑がもれる。
「ごめん、途中で見つけてつい……でもすごくかわいいでしょう? 捨てられるのかわいそうで……」
「いや全然いいけどさ。重くて大変だったろ。言ってくれれば迎えに行ったのに」
「言いだしにくくて……」
「でも結局どうせ持ってくるんだし」
「う、確かに」
 これからは連絡するように、と彼女に言い含めつつ、ベランダへ運び既存メンバーに紹介する。
「ほら、新しい仲間だぞ。――これはどこら辺に置く?」
「この子はそんなにガンガン日が当たらなくても大丈夫な子だから、ちょっと奥の、他の子の陰になりそうなところでいいよ」
「了解」
 他の鉢を少しずらしてスペースを作り、新入りを設置した。
「もう大丈夫だよ~。中村さんにかわいがってもらってね」
 しゃがみこんで鉢植えにそう話しかけてから、彼女は部屋へと入っていった。


 夜のうちに彼女が帰っていった日の翌朝、俺は寝ぐせもそのままにぼうっとした頭で、ベランダで水やりをしていた。
 はじめのころは植物の声というものが何も聞こえなかったが、毎日のようにグリーンを眺めている近ごろではほんの少し植物たちの様子がわかるようになってきた。
「えー……新入りは、水はたっぷりめ、肥料は、やらない……」
 昨晩彼女が残していったメモを見ながら水を与える。他の鉢はもう慣れたもので、メモを見なくても水やりができる。今日はよく晴れているので水も少し多めがいいだろう。
 葉水を与えた鉢の葉が朝日にきらきらと光って美しい。しかしやはり、彼女が手ずから世話をした日の朝のほうが植物たちはより一層光っている気がする。
「ゴマミソちゃん、早くまた来るといいな」
 空のじょうろを手にしたまま、俺はほとんど無意識に植物たちにそう話しかけていた。




中村先生は別れた後も鉢捨てずにお世話続けてくれるタイプだと思う


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