南米・ガラパゴス諸島の生態系/吉川秀幸

南米エクアドルのガラパゴス諸島は、ゾウガメやイグアナなど独自の進化を遂げた生物の多さから、世界自然遺産の登録第1号となった「動物の楽園」です。しかし、その生態系は意外な敵に脅かされています。

人目を気にせず足を交互に上げて求愛ダンスを踊るアオアシカツオドリ。その数歩先に、黙々とサボテンを食べるリクイグアナがいます。島ごとに甲羅の形が異なるゾウガメ、くちばしの形が違うフィンチ……。これだけでも1冊の本が書けそうな気になります。

そんな動物たちも一時、絶滅のふちに立たされたことがあります。捕鯨船や開拓民に食用として乱獲されたゾウガメ、エサ不足で個体数が減ったリクイグアナが、代表格です。そこで、ガラパゴス国立公園事務所と非政府組織のチャールズ・ダーウィン研究所が中心となって人工増殖に成功、現在、野生復帰を進めています。

しかし、チャールズ・ダーウィン研究所技術担当ディレクターのフェリペ・クルズさんは「それだけではまだ不十分。こうした事態を招いた元凶を取り除かなければ元のもくあみになる」と語ります。

「元凶」とは、ゾウガメやリクイグアナが食べる植物を横取りするヤギ、卵を掘り起こして食べる豚、産卵場所を踏みつぶす牛やロバ、さらに小ガメを襲う犬や猫--。いずれも人間が放し飼いしているうちに野生化した家畜たちです。

野生復帰させても、生息環境が改善しなければ事態は変わりません。そのため、国立公園事務所では世界でも珍しく、75頭の猟犬を飼っています。ヤギやロバなどの駆除が目的で、ハンターが犬とともに追い込み、一網打尽にします。

“部隊”はトラックで夜半に出発。船で島々へ渡り、ヘリコプターに犬たちを乗せ替え、ポイントに向かいます。「駆除には、動物愛護団体の批判はあるが、島固有の動物がヤギの犠牲になって良いわけがない」と、クルズさんは語ります。

動物だけではありません。外来植物も急カーブで増えます。

サンタクルス島のゾウガメの生息地では、家具の材料となる大陸産のセデレーラという高い樹木が一帯を覆っていました。このままではゾウガメのエサとなる植物が消えうせるため、公園職員が1本ずつ幹に薬剤を注入して枯らせています。

食用のパッションフルーツやグアバなど外来植物も多く、固有植物は生息空間を奪われています。

この背景には、人間の急増があります。ガラパゴス諸島の人口は、固有の動物が目当ての観光が盛んになる前の1970年代前半には4000人でしたが、現在では2万5000人を突破しました。加えて、年間9万人の観光客が押し寄せます。食料や物資の大半は大陸から運ばれてくるので、外来種増加は止まりそうもありません。

吉川秀幸