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卒論のテーマをください

  帝京・上智の両大学で開講している「質問力を磨く(ClassQ)」で、秋学期から「脳トレシート」を教材に導入しました。
 自分以外の誰かになりきって新聞を読む。ここまでは今までと同じで、その後の展開が異なるオリジナル教材です。山浦晴男先生の「ロジカル・ブレスト法」(「発想の整理学――AIに負けない思考法」ちくま新書)を参考に作りました。ロジカル・ブレスト法は、自分でテーマを設定し、そこから思考を広げていくところに特徴があります。
 これまでClass Qで使っていた「コンセプトマップ」は、記事からキーワードを拾い上げて書き込んでいけば何となく形になっていました。脳トレシートは、自分で思考の方向性を決めないと、何も始まりません。ここで、学生全員がはたと困り、口々にこう言いました。
 「テーマ設定ができない」
 その言葉を聞いているうちに、ふと、K大学教授から聞いた、学生との珍妙なやりとりを思い出しました。

学生「先生、卒論のテーマをください」
教授「卒論のテーマ? ここにはないよ」
学生「どこにあるんですか」
教授「あの山の、向こうかなあ…」

 教授は窓の外に目をやり、会話はここで終わったそうです。
 つい笑ってしまった私に向かって、教授はこう話してくれました。「笑い事じゃないんだよ。大学に学びに来て、自分の卒論のテーマも決められない。そんな学生を育てているんだよ、僕たちは」

 学生がテーマの設定に困るのはなぜか、いろいろな理由が考えられるでしょう。ただ確かなのは、テーマを自分で決めなくてもいい、誰かにテーマを決めてもらって学んできたということです。
 教授に話を聞いたのは、随分前のことです。その後、「主体的な学び」の重要性が指摘され、小学校から大学までの授業は変わったはずです。でも、学生が相変わらずテーマ設定に困っている現実は、何を意味するのでしょうか。(マツミナ)

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