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嬉しくなる映画

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さいきんみた映画、何かの折りに思い出した映画のレビュー。
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#台湾映画

男はもう時計を売るのをやめた――台湾映画について 02

2014年10月  ツァイ・ミンリャンはデビュー作『青春神話』(1992)から引退作『郊遊(ピクニック)』(2014)まで、すべての作品でリー・カンションを主演に起用し続けた。トリュフォーにとってのジャン・ピエール・レオ、コクトーにとってのジャン・マレーが想起されるが、それ以上の存在といってよいと思う。リー・カンションはツァイ・ミンリャンの分身でも詩神でもなく、映画をつくる動機そのものであり、映画をつくる唯一の具体的手段でもあったのだから。この21年間スクリーンに映じた無数

あなたが描く〝孤独〟は映画館で見るのでないと嫌だ――台湾映画について 01

2014年10月  ツァイ・ミンリャンが「長編映画製作から引退」し、「活動の場を美術館や舞台に移す」らしいと聞いた時、「〝私の台湾映画史〟が終わった」と思った。より正確には、ツァイ・ミンリャンの「引退作」である『郊遊(ピクニック)』(2014)のラストカットで、薄暗い廃墟の一室からリー・カンションが立ち去った瞬間にそれは本当に完全に幕を閉じた。いつもと同じ無音のエンドロールを憤然と睨みつけながら、「終わった」と何度も心のなかで呟いていた。  いきなり誤解の種をばら撒きまく