逃げ場所
現実に押し潰され、緩やかに身体が沈んでいく。かつて安寧の場所であったインターネットですら、今は微弱な毒を浴びる場と化してしまい、逃げ場所として機能しなくなってしまった。この状態に陥ると、現実の音を全て遮断したくなってしまう。
いつか、文章を書き綴ることは救いだと語った。溢れ出る感情の負債を反芻させて、文字として排出する。文章を書くという行為が特別好きな訳ではないが、弱ったときに縋ってしまう存在が文章であるのも事実だ。最果てに眠る自己の本質は、淡い光が灯っているイメージがある。もしかしたら、その光には文章が浸透しているのかもしれない。
テキストソフトの黒背景に、感情の出力結果を羅列していく。思考を文章へと沈ませる黒い背景と、何かの残骸として出力された白い文字。これだけを眺めている瞬間は、余計なことを考える必要が無い。ただ文章を書き綴っているだけで、全てから目を逸らすことができる。紛れもない現実逃避。でもそれは、夜に訪れる海よりも落ち着く、万人に許された終着点なのだろう。
ここまで長々と書いて、ようやく少し落ち着いた。終着点に浸れる時間は少ない。混沌に生きる人間は、再び現実へと押し戻されるのだ。テキストソフトを閉じて、ここではない場所に目を向ける。本当に少しだけ、視界がクリアになったような気がした。いつか現実に押し潰される日が来るかもしれないが、きっと大丈夫だろう。何があったとしても、ここで眠ることができるから。