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好きなもの

 誰かと会う際には、美味しい店へ行くことが目的になっている。逆に言えば、食事以外のスケジュールが未定のまま、当日を迎えることが多いです。今日もそうでした。

 午前中に食事が済み、半日ほどの時間が余りました。明確に行きたい場所が定まっている訳ではないので、感性に身を委ねて散策していく。最初は渋谷近辺を歩いていたのですが、少々相性が悪く、下北沢の方へと移動しました。情報過多な街は、どこか窮屈に思えたのかもしれませんね。

 下北沢では、寄り道のような散歩ばかりをしていました。スローテンポの音楽が流れる古本屋に、洋楽とサブカルが入り混じったレコードショップ。会員制と思われるバーが集う横丁や、昭和レトロな雰囲気が漂うアンティークショップ。さらには、コンテナを活用した飲食店などもありました。子供の頃、無数の中古ソフトを漁り、好きな作品を発掘していた時のような、そんな高揚があった。宝箱みたいな街だ。

 好きな空間を堪能して、余韻に酔いながら歩いていく。そんな中で、自分はノスタルジーと静寂が好きなかもしれないと、妙に納得するような思考が湧いてきました。もう少し突き詰めるなら、時間や目的に囚われない場所でしょうか。何となく本屋を散策するのも、とても楽しいですからね。

 余暇という型紙から、好きな場所を選んで、切り抜く。そこから要素を抽出して、ぼやけた輪郭の結論に触れる。恐らく、これは大切な感情に再び辿り着けるよう、ラベリングをする作業なのかもしれません。  

 『好きなもの』というのは、思ったよりも曖昧で。過去の傾向から類似点を挙げ、それを好きだとラベリングすることが、大半であるような気もします。だからこそ、好きを再認識できたことが、かなり嬉しかったです。感性が潤いを取り戻したような、そんな感覚がしました。

 目的を持たず、ただ好き勝手に散歩をした日でしたが、とても贅沢な一日でした。見知らぬ街へ行き、また同じことをしたいですね。