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 本当は寝るべきなのですが、そろそろ海に戻りたくなってしまったので、こうして文章を綴っています。

 ずっと抱えていた肩書きを外し、社会の欠片になる。学生時代の後悔は、正直ほぼ無いです。現実と創作に注力し、大切な記憶を築くことができた。人との別れに対しても、真摯に向き合いました。大切な言葉を贈り、沢山の言葉を貰った。幾つもの祝福が、桜色の光で未来を照らし、不安を振り払う。社会へ出る直前は、心が凪のようでした。入社式前日まで作品制作をしていたのも、とても良かったです。

 そうして、社会人の生活が始まりました。覚えることが多く、未知で溢れ返った世界ですが、案外楽しいです。丁寧な暮らしを心掛けているので、自炊や弁当作りなども楽しんでいる。美味しい食事は精神面などにも影響しますから、それなりに大事です。

 仕事も生活も、上手く回っている。ただそれでも、現実の容量は大きくて、文章と向き合う時間も減っています。最初は仕方ないのかもしれませんが、それでも、少しだけ焦燥感に駆られたりします。

 日記を書くのは、大体1時間ほど掛かります。執筆するのは就寝前になるので、時間が圧迫されて、書けないこともある。ここ数日も、情けない花火みたいに、文章が散っていくだけでした。時計を眺め、12時付近であることに気付くと、知覚できないほど軽い現実が積もっていく。PCの電源は入れず、明日に備えて就寝する。これらを続けていたのですが、少し限界が来ました。黒背景のテキストファイルに、淡々と文字を綴る。そんな行為を求めて、甲高い警鐘が鳴りました。

 恐らく、怖かったのでしょうね。現実に慣れて、妥協と諦観に流されてしまうことが怖かった。文章が零れて、灰色の雪みたいに消えていく。死んだ雪景色から目を逸らして、常夜灯を浴びるのです。文章力は残っても、淡い言葉の光を拾えなくなったら。いずれ灰色の雪すら見えなくなったら、それは何よりも怖いことだと思ったりします。

 気付けば、1時間が経過していました。海に浸るのは、やはり落ち着く。いずれ言葉を紡げなくなる日が来るとしても、それはずっと先の未来だといいなと思います。

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