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特別

 計画を立案するのは深夜であることが多いなと、ふと思いました。現実色の土に埋まった欲求を、夜のスコップで掘り出す。それは宝石のように煌めいて、休日を彩ってくれる。計画は突発的なことが殆どですが、いずれも心を弾ませてくれます。

 さて。そんな訳で、今日はミニシアターへ行きました。目的地には自転車で向かったのですが、これが本当に良かった。快晴の下、空色を眺めながらペダルを漕ぐ。陽炎が立ち昇るアスファルトに、頬を撫でる冷たい風。寄り道をすれば、木漏れ日が微笑んでいて、見知らぬ神社に辿り着いたりもする。少年が駆ける夏休みのような、好奇心と解放感に満ちた時間で、どこまでも行けるような感覚がありました。緩やかな坂道を、自転車で下ったのも楽しかった。少年のようにペダルを漕いだのは、いつぶりだろうか。

 そうして辿り着いたのは、喫茶店のような映画館。1階は本棚のあるカフェになっており、緩やかな時間を堪能できました。小さな本屋が記録された書物を読んだり、素朴なパンやスープを食べながら、洋楽に耳を澄ませる。隣に座っていた方が、とても丁寧な距離感で、好きな映画や書物の話をしていたのも良かったです。

 2階へ行くと、そこにはワイン色の世界が広がっていました。劇場でしか見れない、特別な空間。高貴な椅子が並んでいて、暖色の光が灯っている。この空気は、映画館だけの魅力ですね。奥へ進むと、全22席のミニシアターが佇んでいました。その小さな世界に座り、スクリーンに投影される映像を眺める。『コット、はじまりの夏』という洋画を観たのですが、とても良かったです。原寸大の日常を、そのまま映像化したような、優しい光が差し込むような映画でした。ラストシーンが本当に良くて、どこか冷たい現実の中、彼女は光を見つけたのだなと、とても優しい気持ちになれました。それに気付けたなら、きっと前へ進める。

 空色が薄れ、どこか肌寒さを感じる帰り道。余韻と夕暮れを浴びながら、またペダルを漕ぎました。小さな夏の終わりは、どこか満ち足りていて。少しだけ強く、自転車のペダルを踏みました。また旅をしたいですね。



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《追記》
 これらを経て、帰宅したあと。何となく覗いた、月ノ美兎さんの3D新衣装配信に、全てを塗り潰されそうになりました。知らない曲を歌っているのに、何かが共鳴している。スマホの液晶から、宇宙よりも強い引力が発生していました。万人を惹き付ける人間には、どんな蓄積があるのだろう。そんなことを考えながら、現実と電脳の境界線で歌う彼女を眺めていました。眩しさすら知覚できない光には、どうしても釘付けになってしまう。そんなことを思ったのです。

『ビビビビ』が特に衝撃的だったので、良かったら見てください。

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