『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』感想(ネタバレあり)

観てきました。ネタバレ無しには何にも語れない映画だと思いますので、ネタバレ全開で感想を書きなぐっておきたいと思います。

中にはこれから観る予定が(わずかでも)あるのに「ネタバレ気にしないから読んでみるか」みたいな人もいるかもしれませんが、今すぐ閉じてください。少なくともここで知るのはやめて他で知ってください。私が悲しくなるので。

ついでにいうと元ネタであるDQ5のネタバレも含みます。

また前提として、私は世界で一番DQを愛しているDQファンですので、分厚い色眼鏡を通した感想になることはご了承ください。あと、このnoteには「好きなこと」だけを書くつもりなので、好きじゃなかった点については基本的には書かないつもりです。不満点が無いわけではありません。

では、少し改行を挟んで始めます。




まとめ方が難しすぎるので、ひとまず「核心となるオチ」を除いた感想をまとめます。

●総評:特定のDQ5ファンには至極の作品である

はっきり言えば、この映画は「DQ5をプレイしたことがある」人が楽しめるような作品として作られていると思います。さらに言えば、「DQ5が好きかどうか」で評価もめちゃくちゃ割れる映画でしょう。もっと言うと「DQ5の何が好きか」にもよると思います。

で、私はDQ5が大好きなわけですが、『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』は本当にめちゃくちゃ良い映画だったと思います。

良かった点は色々あるのですが、私にとって最大のポイントは「大好きなDQ5の大好きなシーンが最高の音楽とともに映像化されており、自分の記憶の中の理想の映像と融合した」ということです。ちょっと何言っているのかよく分からないかも知れませんが、私もよく分かりません。ただ、文字にするとやはりこういう表現になるのかなと思います。

まず私は、DQの最大の魅力のひとつは「想像力が掻き立てられるゲーム」という点だと思っています。DQの伝統として主人公は喋らないので、どんな事を考えているかは分かりません。グラフィックも(作品にもよりますが)簡素で記号化されたものが多いです。

ですが私の中ではDQの主人公はときに饒舌で陽気なこともありますし、大きな街では何十万という人が暮らしています。DQとは「そういうゲーム」なのだと思っています。

そして、そんなDQの中でも、特にDQ5は「このキャラはこんなことを考えているはず!」と想像してドキドキワクワクさせられるゲームです。

誇りであり自慢である父が、自分のせいで無抵抗になぶり殺されるのをただ見ることしかできない主人公の心境。複雑な家庭と国の事情の中で育ちながらも家族や国を想い、十数年の奴隷生活を経てなおその想いを忘れることのないヘンリーの心境。忠誠を誓った主君とその息子を同時に失い、その主君の親友が治めるはずのラインハットから追われ、失意の内に国へと帰ったサンチョの心境…。などなど、作中では多くを語られずとも、心境を想像すれば胸が苦しくなるようなキャラクターたちばかりです(語られてる部分もあるけど)。

上の画像は、大好きなDQ5のセリフのひとつ(画像2つあるけど)です。ヘンリーの本当に何の変哲もないセリフで、これだけを見れば特に何かフックのあるようなものではありません。ですが、ここまでに主人公とヘンリーが置かれてきた境遇を考え、そこから抜け出した直後だと考えれば胸に突き刺さるようなセリフに見えてくるのではないでしょうか。

まあこのセリフはリメイク以降で追加されたものではありますが、DQ5はこのようにユーザーの想像で面白さが何倍にもなるようなシーンが各所にある作品なのです。SFC版をプレイしていた頃も、こんな会話をしていたんだろうなーという漠然と想像はしていました。

さて、脱線しかけた話を本題に戻しますが、『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』は、そのような想像に対する「解答」を示してくれた…のではなく「新たな解釈をくれた」作品だと思っています。

リュカがパパスを本当に尊敬している様子、そのパパスとの別れ、未熟だったリュカの成長、サラボナでの葛藤、人並みの小さな幸せ、その幸せを再び奪われる悲痛、そして最終決戦… まだまだ他にもありますが、映画で観たシーンはただそれ単品だけではなく、私の頭の中にある名シーンと融合して、新たなシーンを作ってくれました

私は映画を観ていましたが、スクリーンに映る映像とは別のものを見ていた。そのように感じています。

ぶっちゃけた言い方をすれば「自分の脳内補完によって素晴らしい作品だと認識するようになった」ということになります。なのでこの作品に対する評価は、一般的な作品を遥かに超えて自分の解釈を多分に含んでしまい、「おすすめの映画なのか」と聞かれても「分からない」と答えるしかありません。他の人がどのように評価するかも、正直さっぱり分かりません。

ですがまあ、実際他人はどうでも良いんですよね(最近人に作品を勧めることが多かったので気にしちゃうんですが)。少なくとも私にとっては素晴らしい作品であった、というのがこの映画への総評となります。

●オチについて

この映画への評価が真っ二つに割れてるのは、「オチ」によるところが大きいのではないかと思います。

今見ている世界はすべてが作られた仮想現実世界の話だった、という展開は多分SF作品にはちょくちょくあるものですが、今回ほど物語に入り込んでいた瞬間にその設定を叩きつけられたのは初めてでした。

正直言うと、混乱から我に返って状況を理解したときは壁を蹴ってその場で映画館から出ていくという暴挙すら頭をよぎりました。そんなこと人生で一度もやったことないのに。

DQという作品は物語に入り込ませるのが非常に上手く、メタ的な要素は必要最低限に抑えるものだと思っていたのです。そのため、今回私が受けた衝撃はとてつもなく、頭の中はしばらく真っ白になっていました。

まあこの衝撃自体は(これを書いてる)一晩経った今でもまだ引きずっているほどではあるのですが、その後主人公が吐露した想いには共感できることが多く、映画を見終わる頃にはポジティブに捉え始めていました。

堀井さんはいつも「ユーザーを驚かせたい」という気持ちで作品を作っていると聞きますし、そういう意味ではこれ以上無いほどに驚かされる展開であったと思います。それに最初から「仮想世界である」伏線はところどころにあったと記憶しています(オープニング、幼年時代のスキップ、フローラの薬の自己暗示、プサンの「今回の設定では」など)し、そういう前提で考えるとたしかによくできた構成だなとも思いました。特にプサンのセリフはメタいギャグだと思ってたので終わってみれば非常に上手いなと。

というわけで、私のオチに対する感想は「最初はマジでクソかよと思ったけど落ち着いたらアリなのでは?って思えるようになった」というところです。

手放しで称賛はしないけど冷静に思い返すと悪くなかったな、ってくらいですね。当然、このオチを死ぬほど嫌だという人もいると思いますし、意外性を絶賛する人もいるのだと思います。そういう評価をされるっていうことは、制作側も予想していることだろうなーと。

とりあえず私は、この作品についてオチとそれ以外の評価を分けて考えることにしました。その結果がこの記事のまとめ方となっています。

さて長くなりましたが総評はこんな感じ。ここからは良かったところを挙げていきます。ブツブツになります。しかしこの記事なげえなホント。

映画を観ながらDQ音楽を聴ける幸せ

DQの音楽ファンには説明不要かと思いますが、音楽の使い方が本当に良いです。

「街は生きている」は、(物語の節目とは対称的に)平和でのどかなDQ5の世界をカンペキに表現しています。

「高貴なるレクイエム」の使い方はほぼ原作通りで文句なし。

「精霊の冠」をバックにヘンリーが「何かあったら全力でかけつけるから」と言うシーンは不思議な一体感があった。

「哀愁物語」も原作通りで文句なし

ブオーン討伐後の空気感に「やすらぎの地」がジャストフィット。なごやかな雰囲気の中に「この後何が起こるんだろう」とうドキドキが感じられる素晴らしい選曲

プサンとの会話に「神の祈りを」を使うセンス

「敢然と立ち向かう」とともにヘンリー・ブオーンの登場。マジで震えた(展開を先にPVで知ってたのが残念)。

ゲマ戦で「決戦の時」を使ってくる演出に脱帽。私の顔はぐしゃぐしゃになった

「この道わが旅」で主人公が思い出を語るところ。この曲で自分がやっと我に返った感はあった。

ビアンカとフローラ

リュカに薬を渡す占い師のおばあさん、観ている時は「この人要らなくない?リュカが自分自身で気づいたほうが良いんじゃ?」と思ってました。で、正体が分かった時は「ごめんなさい!」って気分になりました

フローラの行動であれば、と納得できる構成でした。フローラのことがより好きになれる展開だったと思います。どっちかと言えばビアンカ派ですけどね。

ブオーンの扱い

普通にブオーンを倒してしまうものだと思っていたので、ブオーンを倒さないという選択肢に驚きました。原作とは違う展開ですが、たしかにその方が5主人公らしくて良いかもなと思えました

DQXのブオーンの扱いも好きなので、そういうところをオマージュしてくれたのは嬉しかったです。

ルドマンがやっぱり良い人

原作より若干トゲがありましたが、ルドマンさんが良い人で良かったなと。ルドマンさんって嫌味なお金持ちのようにも見えちゃうんですけど、娘に関係なく結婚式を開いてくれたり家宝や船までくれたりっていう「良い人」なのがすごく好きなんですよね。

ゲマ・ジャミ・ゴンズとの再戦

アルスが生まれた後、ゲマたちに襲われた時のリュカの心境ってどんなだったんだろうなあ。パパスの仇をついに見つけたわけで、絶対に戦って倒したいという気持ちがあったはず。でもその状況では逃げるしかなくて、それでも家族バラバラになってしまって、挙げ句には石化させられて…。

なんて考えていたら最初に書いたような、目の前の映像と頭の中のシーンの融合が起き始めて、頭の中がぐちゃぐちゃになって気がついたら目から涙が零れてました

リュカとビアンカの石化

リュカが苦悶の表情で石化したときゲマは「いい表情だ」的なことを言っていました。対してビアンカが、ゲマを睨みつけるような表情で石化したときは「つまらない表情だ」的な表現をしていました。

ゲマが何を好んでいるのか、明確には言わずにしっかりと伝えてくれたのが良かったなと。(最初に子を想う親は~~とかは原作通り言ってましたけど)

少年リュカと青年リュカの出会い

物語序盤に少年リュカ目線で描かれたシーンが、後半に青年リュカ目線で描かれるという原作でも大好きだった展開。

「どんなにつらいことがあっても~」というセリフをしっかり使ってくれたのも嬉しかったし、青年リュカがパパスを気にかけるんだけど結局何も会話はしない、という展開もホントに良かった。また泣いた。

オーブのすり替えってどうやったんだろうって昔から疑問だったけど、まあそんな感じだよねっていう危うさも良かった。

ヘンリーとブオーンの登場

お約束みたいなものだけど、やっぱり熱かった。ヘンリーが助けに来るのはPVで知ってたけど、ホント大好き。

そもそも私はヘンリーが大好きで、DQ11で言えばカミュくらいの位置にいてもおかしくないキャラだと思ってるんですよね。

王族ということは知らないけどパパスと楽しく旅していた主人公と、王族として不自由ない暮らしを送りながら環境に恵まれず捻くれてしまったヘンリーの対称性。自分のせいでパパスを失ってしまったという後悔を抱えつつ、その息子である主人公と親友と言える関係になっていく展開。奴隷として十数年暮らしていたのに、国のことを憂うトムに「なにも言うな」と言える器の大きさなど、もう大体全部大好きです。もっと評価されていいキャラ。

そんなヘンリーをしっかりと活躍させてくれたので私は大満足です

▼ここから気になったことをいくつかだけ▼

最初に書いたとおり、基本的には好きなことだけを書くつもりなのですが、記事のアクセントのために不満点も少しだけ書いておきます。

キャラの解釈違い

オチを除くと、多くの人がこの辺りを不満点として挙げる気がします。言うほど気にするわけではないんですが、私の中でも結構色々キャラの解釈違うところがありました。

公式が(堀井さんが)言ってるんだからこの映画の解釈が唯一の正解なのだ、ということは決して無いと思ってるので自分の考えをまとめておきます。

リュカ→自分の中ではDQの主人公ってもっと超人的というか聖人的なイメージがあったので凡人的なところから弱みを見せながら成長して行くのはちょっと違和感がありました。物語の構成的に仕方ないのかなとも思います。もっと言うと、現実世界の人なんだからそりゃキャラ違うよねってところもあります。

ヘンリー→必要以上に不遜さが出ていて、ヘンリーに対するリュカの態度は違和感ありました。「お前はオレの子分だろう?」は決め台詞だけが良かった。自分の中では十数年の苦楽(99%苦)をともにしていた親友的関係だと思っていたので。いや、根っこのところはそう描かれていましたが、表面的にももっと親友であって欲しかったので主人公に敬語を強要するのは変だなと。

ビアンカ→自分の中のビアンカよりもだいぶトゲトゲしかったです。少女の頃はお転婆で、成長してからは結構大人しくなっていたイメージなので。まあこれも構成上というか、物語の抑揚的に仕方ないよなとは。

ゲマ→装飾と演技がちょっと過剰で、必要以上にいやらしさが出てたような気がしました。個人的にはもうちょっとシンプルで良かった。でもそのいやらしさがいい感じに働いてたとこもあった。

神殿からの逃げ出し方

こっからはだいぶ細かいです。原作のヨシュアの決意が好きだったんですが、無くて残念。彼の協力がないとだいぶ運に任せた逃げ出し方だったなーという印象。

トムがラインハットの悪口を言わない

上でちょっと触れましたが、好きなシーンなのに無かったのが残念。

MEの使い方に違和感

音楽は本当に素晴らしかったのですが、MEはちょっと浮いてしまっていて現実に戻される感じがしました。なくても良かったかも。

息子の名前

主人公がリュカなら息子の名前はアルスじゃなくてティミーであって欲しかったなと。まあこの辺はゴタゴタ起きてるみたいですけども。

他にも「おやぶんゴースト」が「人食いゴースト」になってるとか、「別に変わるのはいいけどそれなら原作と同じでも良くない?」って思うところはちょくちょくありました。

まとめ

とまあ、不満点も挙げてはみて、もちろん他にもまだまだたくさんあるんですが基本的には些末なものです。

最初に述べた通り、総合的には素晴らしい映画だと思いました。

というわけで、私は『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』が好きなのです。

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