僕らが旅に出ない理由~映画『ミッドサマー』感想

 ―失恋したら女は南の国にバカンスに行くべき。男性は北の国で海風に吹かれて来い。
 いつだったか読んだ、こんな文章を思い出しました『ミッドサマー』。観る前に「この映画を撮ったきっかけは失恋したこと」という監督のインタビューを読んだからだと思うのですが。なのでオカルトやホラーに強くない(絶対無理!!というほど弱くもないけれど)私も怖!と思うことなく観ることができました。ただ夜中にラストのとあるシーンの映像が脳裏に浮かんできてぞっとなったことはありましたが 。あれ怖がっとる…。
 しかし監督が「失恋したから作った」というのなら、なぜ監督は男性なのに最後に笑うのは主人公の女性で、彼氏を始めとする男性陣は皆……なストーリーなんだろう??やはり「男は北の海で寒風に吹かれてこい」って」ことでしょうか。
 ただ主人公のダニーの性格がかなりネガティブで(『凪のお暇』の凪ちゃんが浮かんでました。空気読みすぎて自らキャパオーバーになっちゃうタイプ)、あまり共感できなかったせいか、彼女にとってはハッピーエンド、かもしれないラストにも心から良かったねえ、と思うことができず。かといってもちろん酷い目に遭う男性陣に同情することはできないし。いきなり立ち●ョンするとか勝手に大事な聖書を盗み撮りとかアウトでしょ…。主人公の彼氏くんは誘惑に負けて…なので100%悪人とは言えないかもしれませんが、彼女からしたら完全に裏切りですから。なんとなくもやっとした後味が残るラストでした。。。
 そういえば彼氏が犠牲になってしまったカップルの女のコがどうなったのか分からなかったのですが、無事逃げたのでしょうか。とするとやっぱりヤられるのは男性のみ…?
 この映画の怖さって、ホラーというより人間心理、カルト信仰への恐怖だと思うのですが、例えば作中のある人たちの死について、日本人なら大抵の人は“姥捨て”を連想すると思う。そう考えると恐怖というより、どこか民俗学的な土着文化の生々しさを感じたという方が正しいように思えます。実際主人公の友人はこの地の民俗文化について論文を書こうとしていましたし。ホラーとかオカルトって“死”について描くものがほとんどですが、この映画のスクリーンから伝わってくるのは圧倒的に“生”。舞台の村の人たちの笑顔からも「生きる!」という強烈な力を感じる。「私たちは頂いた命を全うするのです!」という真っ当すぎる意思があって、自分の存在意義だとかなんのために生きるかとか、そんなこと一度も考えたことないんだろうなっていう笑顔。でもその時その時の感情に正直で、彼氏の裏切りを知って傷ついた主人公と一緒に号泣してくれる。確かに失恋した時に一番欲しいのはこういった存在かもしれません。何も言わずに一緒になって、ただただ泣いてくれる人たち。このシーン、彼女自身は本当に傷ついて、絶望の真っ只中にあるシーンなのですが、なぜか観ていて笑ってしまう(実際劇場でもくすくす笑いが起きていました)。本人には悲劇でも、はたから見たら喜劇。この場面を見て、監督が失恋して作ったというのが納得できました。
 この映画、“カップルで観にいくと分かれる”と言われているらしいですが、とりあえず男性の皆さんは「ヒュッ」ってなると思います。いやー、女に生まれてよかったー笑。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?